今の日本の景気は良いのか悪いのか、議論が分かれている。では、日雇い労働者たちの“景況感”はどうだろうか。彼らが集まる大阪・西成と東京・山谷で現場取材を敢行。見えてきたのは意外な現実だった。(取材・文/フリージャーナリスト 秋山謙一郎)

西成の労働者に聞いた景況感
「景気、ようなった思うで」

大阪・西成区「あいりん福祉労働センター」の周辺の様子  Photo by Kenichiro Akiyama

 大阪の新名所、「あべのハルカス」から歩くこと約15分。12月末、日雇い労働者たちが集う西成区の「あいりん地区」を訪れた。地元では“センター”と呼ばれ、彼らの集会場としての役割を果たす「あいりん福祉労働センター」の周辺は、年の瀬ということもあってかごった返していた。

 その雰囲気はまるで教科書に出てくる“戦後すぐの日本”そのままだ。平成の現代にあってこの「あいりん」の一角だけ異質な空気感が漂う。10代、20代の若年層はほとんど見られない。多くは60歳以上の高齢者だ。路上に布団を敷き寝ている者、ゴミ箱を漁っている者、なかには靴代わりなのかコンビニ袋に足を突っ込みくるぶしの辺りでそれを縛って歩いている者もいる。

 “センター”横の路上で布団を敷いて寝ていた労働者の一人に景況感を聞いてみた。

「景気、ようなった思うで。ここ6、7年ほど仕事の数は増えてきた気がするわ。賃金のほうはさほど増えたとは思わんけどな。仕事は確かに増えてるで」

 今年57歳になるというこの労働者は、あいりんではまだまだ“若手”に分類される年齢だという。

「数年前、東日本大震災の前がいちばんきつかったわ。それから徐々に仕事は増えてきた気がするな。去年はぎょうさん仕事もあったしな。景気は上向いているとちゃうか?」

 大阪・西成のあいりん地区に匹敵する“東”の労働者の街、東京・山谷ではどうか。労働者の生の声を聞くべく山谷へと向かった。