労働法の無知が
部下を殺す可能性がある

 課長に労働法の知識がないと、部下の命を危険な目にあわせることもあります。あるパン製造工場での話です。

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パート労働者が1ヵ月に139時間の残業をしました。
しかし、その残業代が未払いになっていました。
そのパート労働者は、「1日8時間、週40時間」という労働法の規定を知らず、上司から命じられるままに働いていたのです。
月139時間という残業時間は、過労死の基準を遥かに超えるレベルです。
結局、そのパート労働者は脳疾患で倒れてしまいました。

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「ハラスメントブーム」の時代に<br />労働法を知らない課長がヤバすぎる理由  部下の残業、見て見ぬフリしていませんか?

 近年、過労死がたびたび問題となっています。そんな状況を打開するために厚生労働省は平成13年12月、労働基準局長名で『脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準について』を通達しました。

 そこには「発症前1ヵ月間におおむね100時間又は発症前2ヵ月間ないし6ヵ月間にわたって、1ヵ月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が認められる場合は、業務と発症との関連性が強いと評価できる」としています。これに基づき、「過労死基準は月に残業100時間」とされています。もし、このパート労働者が訴えを起こせば、課長が責任を追及される可能性は免れません。

 ――このように、労働法の知識とは、勉強しておくとスキルアップがはかれるという類のものではありませんが、課長自身の立場や、部下の命を守る「盾」となる必須知識なのです。

神内伸浩(かみうち・のぶひろ)
労働問題専門の弁護士(使用者側)。1994年慶応大学文学部史学科卒。コナミ株式会社およびサン・マイクロシステムズ株式会社において、いずれも人事部に在籍社会保険労務士試験、衛生管理者試験、ビジネスキャリア制度(人事・労務)試験に相次いで一発合格。2004年司法試験合格。労働問題を得意とする高井・岡芹法律事務所で経験を積んだ後、11年に独立、14年に神内法律事務所開設。民間企業人事部で約8年間勤務という希有な経歴を活かし、法律と現場経験を熟知したアドバイスに定評がある。従業員300人超の民間企業の社内弁護士(非常勤)としての顔も持っており、現場の「課長」の実態、最新の労働問題にも詳しい。
『労政時報』や『労務事情』など人事労務の専門誌に数多くの寄稿があり、労働関係セミナーも多数手掛ける。共著に『管理職トラブル対策の実務と法 労働専門弁護士が教示する実践ノウハウ』(民事法研究会)、『65歳雇用時代の中・高年齢層処遇の実務』『新版 新・労働法実務相談(第2版)』(ともに労務行政研究所)がある。
神内法律事務所ホームページ http://kamiuchi-law.com/