セクハラ、パワハラ、マタハラ、ソーハラ、スモハラ、アルハラ……。いま、労働環境はにわかに「ハラスメントブーム」状態に。部下発、上司発、会社発とあらゆる労働問題に巻き込まれる課長にとって、おそらく過去最大レベルに労働法の知識が求められる時代が訪れています。インパクト大の事例とともに、実践的な「法律の使い方」をお伝えする連載第1弾。
(文中の一部の事例は、事実をもとに改変を加えたものです)
課長が訴えられて
損害賠償責任を負わされた話
課長が労働法を理解していないと、どんなことが起きうるのでしょうか。
労働法の基礎知識をもたない課長が、自分の経験だけで判断し、労働問題の当事者になるケースは少なくありません。たとえば「サントリーホールディングスほか事件」(東京地裁 平成26年7月31日判決)は、上司の部下に対する行動が「不法行為」と認められた事案です。
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上司が、一人の部下の勤務態度に不満をもちました。
指示された業務の納期を守らなかったことなどが、その理由です。
「おまえは新入社員以下だ。もう任せられない」
「何でこんなことがわからないんだ。おまえは馬鹿だ」
上司は部下に言い続けました。
これは明らかなパワハラです。
間もなく部下はメンタルヘルスの不調をきたします。
心療内科で重度のうつ病と診断され、休職するように言われました。
そこで翌日、診断書を添えて上司に3ヵ月の休職を願い出ました。
これに対して上司は、ちょっと考えられないような自分勝手な判断をします。
まず、心療内科の診断書を、自分の机にしまったまま放置しました。
もちろん本来であれば、人事部に提出しなければいけないものです。
そして部下にこう告げます。
「3ヵ月の休養については、有給休暇で消化してくれないか」
「君は隣の部署に異動する予定だが、もし3ヵ月の休職をするなら、異動の話は白紙に戻さざるを得ない。つまり休職後も私の下で仕事を続けることになる」
「今日から4日以内に、どうするか判断してほしい」
この部下は、悩んだ末に有給休暇を取得することを選びました。
そして、会社と上司を訴えました。
裁判所は、上司の暴言をパワハラと認定。
また、診断書の棚上げを不法行為に当たるとして、損害賠償を命じました。
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「休職させるべき」という医師の診断書が出ているにもかかわらず、自分の判断で棚上げするなど、どう考えても明らかに許されない行為です。
もし、この上司にわずかでも労働法の知識があれば、自ら身を滅ぼすようなことはしなかったはずです。部下に訴えられてしまった後では、「労働法を知らなかった」では済まされないのです。