最近、うつ病など心を病む人が増えています。その理由として上位に並ぶのが、対人関係の問題です。会社は多くの人が集まる場所であり、そこには、上司や先輩、同僚、部下や取引先など、多くの人間関係が生じます。それら錯綜する人間関係は、いずれもストレス要因になり得ます。職場のストレスをなくし、働きやすい環境をつくるのは、現場を預かる管理職やリーダーの仕事のうち。本連載では、『部下をもつ人の職場の人間関係』を上梓した対人関係療法の第一人者で精神科医の水島広子氏が、部下と上司のストレスをなくし、円滑な人間関係をつくるコミュニケーションのコツをアドバイスします。

職場の人間関係の質が向上すれば、人生の質も向上する

  最近、「うつ病」など心を病む人が増えています。その多くの理由として上位に並ぶのが、対人関係の問題です。

 会社は多くの人が集まる場所であり、そこには、上司や先輩、同僚、部下や取引先など、多くの人間関係が生じます。

 もちろん、そうした関係があるからこそ仕事が順調に進んでいくのですが、これら錯綜する人間関係は、いずれもがストレス要因にもなり得ます。

 どういうことかというと、リーダー自身に問題があってストレス源になっていることもあれば、職場で生じている対人関係の問題に上司やリーダーがうまく対応できずに、ストレスを職場に放置したままになっている場合もあります。

 実際に、同僚との問題をいくら上司に訴えても、馬耳東風で取り組んでくれない、という話もよく聞きます。

 職場での人間関係が多くの人のストレスのもとだということは、職場の対人関係のコツをつかみ、その質を高めることができれば、ストレスの少ない、やりがいのある職場環境をつくれるということになります。

 改めて、職場の人間関係というものをよく考えてみると、おもしろいものです。例えば、何かの病気になったときに駆けつけてくれ、付き添ってくれるのは、家族や恋人、親しい友人たちです。そのような人は、基本的に、最も親しい人と言えるでしょう。専門用語では「重要な他者」と呼びます。

 一方、職場の人間関係は、特別な親友になったのでもない限り、「重要な他者」とは言えない存在です。職場ではお互いに相手のことについてよく知らない、という場合も少なくありません。

 ところが、一日の生活を振り返って、職場の人と「重要な他者」と、どちらと過ごした時間が長いかを考えてみるとどうでしょう? 少なくとも平日は、「職場の人」と答える人が多いのではないでしょうか。

「重要な他者」のことは、性格も背景もよく知っているけれども、ともに過ごす時間は案外短いもの。特に、仕事が忙しいときなどは、家には、ただシャワーと睡眠のためだけに帰る、などという場合もあるでしょう。

  一方、職場で一緒に働く人は、どういう事情を抱えた相手なのかよく知らないのに、一緒に過ごす時間が長い、という特徴があります。

・どういう事情を抱えた相手なのかわからない(どうすれば効果的に関われるかわからない)
・一緒に過ごす時間が長く、利害関係もある

 この二つの特徴が、職場の人間関係を案外、難しいものにしているのだと言えます。仮に相手のことが苦手だとしても、仕事という、生活や自分の社会的評価に関わる作業を一緒にしなければならないからです。

 ビジネスパーソンにとって、会社は人生の多くの時間を過ごす場所。ですから、そこでの人間関係の質を向上させることができれば、人生そのものの質も向上すると言うことができます。