絵をすべて見終えた後、学生たちは547から3ずつ引いた数を順に数えるようにと指示された。これはいわば記憶の口直しで、短期記憶から絵の記憶を一掃し、テストの前に絵から注意をそらすことが目的だった。
そして、実験の目的を果たすためには、テストのときに学生が見た絵を1作品も含めてはいけない。学生が絵を勉強したのは、画家のスタイルを学ぶためであって、絵を記憶することではない。ブラックのスタイルを「わかって」いるなら、見たことのない絵でも彼のタッチに気づけるはずだ。コーネルとビョークは、学生たちが勉強していない風景画を1作ずつ順に48作見せ、12人の画家からその絵の作者をクリックして選ばせるテストを実施した。
ふたりはどんな結果を期待していいのかわからなかったが、ブロック学習をしたグループが優位に立つとは限らないと思っていた。それには理由がある。
まず、人が画家のスタイルをどのように判別するかは、まだ明らかになっていなかったということ。そしてもう一つは、1950年代に抽象画の作者名を被験者に覚えさせるというよく似た実験が行われており、その実験では顕著な違いが見られなかったことだ。ブロック学習で覚えた被験者と、ランダムに学習した被験者の成績はまったく同じだったという。
だが今回は違った。ランダムに学習したグループは65パーセント正解したのに対し、ブロック学習をしたグループは50パーセントしか正解しなかったのだ。科学の世界では、このくらい違いがあれば、何か意味があると考える。だから、ふたりは別の学生を被験者にしてもう一度実験を行った。
今度もやはり、ブロック学習とランダム学習を行った。被験者の学生に対し、6人の画家の作品をブロック学習で勉強させ、別の6人の画家の作品をランダム学習で勉強させたのだ。結果は同じで、ランダム学習で勉強した画家の絵の正解率が65パーセントで、ブロック学習で勉強した画家の絵の正解率は50パーセントだった。
「画家について教えるとき、その画家の作品を続けて見せるのが一般的な方法だ」コーネルとビョークは論文にこう書いている。「美術史の教師(そして実験の被験者)は納得がいかないかもしれないが、別の画家の絵をあいだに差し挟むほうが、同じ画家の作品を続けて見せるよりも効果的だと判明した」
学習の基本原則となった
「インターリーブ」
この差し挟む行為を、認知心理学の世界では「インターリーブ」と呼ぶ。その意味は単純に、学習中に関連性はあるが違う何かを混ぜるという意味だ。
音楽教師のあいだでは昔からこのテクニックが好まれていて、1コマの授業のなかで、スケール練習、音楽理論の勉強、曲の練習を代わる代わる行う。スポーツのコーチやトレーナーも同じく、持久力を鍛えるエクササイズと筋力アップのエクササイズを交互に行い、筋肉に一定の回復期間を必ず与える。
そうした理念は、伝統として受け継がれてきたもの、個人の経験から来るもの、酷使に対する懸念から来るものがほとんどだ。コーネルとビョークが実施した絵の実験により、インターリーブは学習の基本原則の一つに加わった。
このテクニックは、ほぼどんな学習素材でも、脳により深く刻み込むことを可能にしてくれる。彼らの研究を画期的と呼ぶのは早計だが、さまざまな分野にインターリーブの研究を広めたのは間違いない。専門家に限らず、ピアノ演奏、バードウォッチング、野球のバッティング、幾何学の研究(勉強)にかかわる人々に少なからず影響を与えた。