課長の「イライラ」が
部下のモチベーションを落とす
別の外資系金融会社の営業課長も、部下の給料が高いことに不満をもっていました。
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数年前に2つの金融会社が合併。
元の会社の給与体系を維持することになり、
出身が違う課長と部下の給料が逆転。
課長はこの部下を「給料が高いくせに全然仕事ができない」と感じています。
次第にコミュニケーションの機会が減り、
会議以外では話をしなくなりました。
営業課にはピリピリした空気が漂い、
チームとしての団結力は失われ始めます。
間もなく課の成績が急激に落ち、
会社は人員配置を考え直さざるをえなくなりました。
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陰湿なパワハラに発展しないまでも、課長が不満を持っていれば、必ず何らかの形で課内に伝わり、メンバーのモチベーションを下げます。部下は、課長が思っている以上に課長のことをよく見ているものです。
それでは、給料の高い部下が周囲に悪影響を及ぼしそうになったとき、課長はどう対応したらよいのでしょうか。
本人の同意なしの降給は不可能
まず、「給料を下げるには部下の同意が必要」だということを知っておいてください。給料アップは労働者に有利な施策ですから簡単にできますが、ダウンは部下の不利になるため労働者の同意が必要になるわけです(労働契約法9条)。
中小企業の中には、「原油高が進行して利益が落ち込んでいるから、半年間全社員の給料を5%カットする」などとして安易に給料を下げる社長がいます。そこで社員が「原油高では仕方がない」とあきらめるケースもあるでしょうが、社員が不同意による減額だと主張して提訴した場合、会社に勝ち目はほとんどありません。
もっとも、変更がどうしても必要で、変更理由が合理的であって、変更後の内容が妥当であること、さらに、社員にきちんと説明し協議を尽くしてきた場合などの一定の条件を満たせば、不利益変更が認められないわけではありません(労働契約法10条)。
たとえば、高層ビルの高所作業をしている会社において、就業規則で定年を70歳と規定していたとします。70歳は一般的な定年年齢と比べて高いこと、高所作業には危険が伴うことから、定年を他社並みの65歳に変更したいと考えたとします。これは労働者にとっての不利益変更ですが、変更後の内容は合理的と判断できますから、きちんと社員に説明して協議を尽くすなど一定の手続きを踏めば、変更できます。
社員の同意なしで勝手に給料を下げようとして、大きな労働問題に発展したケースがありました。
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特殊な部材を製造しているあるメーカーの話です。
社員数20名、社長、副社長のほかは全員ヒラ社員。
創業当初は競合が少なく業績が良かったため、毎年給料を上げてきました。
しかし数年で競合が増え、リーマンショック以降業績は急激に悪化。
そこで「不景気では仕方がない。社員も納得してくれるだろう」と考えた社長。
何の相談もなく給料を下げようとしました。
すると社員は組合をつくり、外部ユニオンに駆け込みました。
団体交渉には外部組合員がやってきて、大声で怒鳴り散らします。
結局、給料を下げることはできませんでした。
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賃金を下げようと思ったら、長い時間をかけて本人に説明し、同意のうえで給与を下げるしかありません。この知識を、社長ではなく、課長が身につけていることのメリットは、社長や経営層がこれらの知識をもっていなかった場合に、「会社に不利になりますよ」といさめることができる点です。そして部下に対しては「会社の存続に関わる危機である」と伝えます。このように課長には、協議の潤滑油としての役割を担うことが期待されます。