「この給料泥棒が!」
という考え方は筋違いです
仕事で実績を残さない部下を、安易に「給料泥棒」という課長がいます。この給料泥棒という考え方が、課長の心のなかにある嫉妬や憎悪を燃やし、労働問題のはじまりになることが多いのです。
実は、給料泥棒という考え方は、そもそも間違っています。労働者の債務は、労働力を提供すること、正確に言えば、「労働力を提供可能な状態に置くこと」です。
労働者が午前9時から午後5時まで労働力を提供したとして、その労働力を上手に活用できるかどうかは、課長次第です。出社早々自席でネットを見ていて定時にさっと帰ったとしても、法的に言えばその部下に債務不履行があったことにはなりません。部下は、デスクに座って働ける状態にある時点で法律上の義務を一応果たしていることになりますから、あとはその労働力を上手に活用できない課長の問題ということになります。
もちろん、まったく仕事をしない部下というのは極端な例ですし、そういう部下に対して給料泥棒だと思う感覚自体は「ごもっとも」です。しかし労働法上、課長が部下に「給料泥棒」「給料が高すぎる」などと思うことは間違った考え方なのです。部下にしてみれば「会社が設定した給料なのになぜ文句を言われるのか」と言うことになります。
課長は、まず法律知識としてこのことを知っておくべきでしょう。
パワハラ回避を念頭に
指導する必要があります
さらに課長は、部下指導がパワーハラスメントとなり、その結果として部下がメンタルヘルス不調に陥ることがないように注意する必要があります。
部下との個人面談で「あなたは給料に見合った仕事をしていない」と伝えて、責任の重い仕事を与えるなど、給料に見合ったパフォーマンスを求めること自体には問題はありません。
しかし、本人の能力を大きく超える責任や仕事を与えた場合、部下のメンタルヘルス不調につながったり、パワハラであると訴えられたりする可能性があります。
また、課長自身がそうしなくても、社長や上司から「負荷の高い仕事をやらせて、本人に仕事ができないことを自覚させろ。そして退職に追い込め」とか、「仕事を与えるな。干して辞めさせろ」などと指示される可能性があります。それを言われるままに実行すれば、当然ながら同様の問題が発生してしまうのです。
労働問題専門の弁護士(使用者側)。1994年慶応大学文学部史学科卒。コナミ株式会社およびサン・マイクロシステムズ株式会社において、いずれも人事部に在籍。社会保険労務士試験、衛生管理者試験、ビジネスキャリア制度(人事・労務)試験に相次いで一発合格。2004年司法試験合格。労働問題を得意とする高井・岡芹法律事務所で経験を積んだ後、11年に独立、14年に神内法律事務所開設。民間企業人事部で約8年間勤務という希有な経歴を活かし、法律と現場経験を熟知したアドバイスに定評がある。従業員300人超の民間企業の社内弁護士(非常勤)としての顔も持っており、現場の「課長」の実態、最新の労働問題にも詳しい。
『労政時報』や『労務事情』など人事労務の専門誌に数多くの寄稿があり、労働関係セミナーも多数手掛ける。共著に『管理職トラブル対策の実務と法 労働専門弁護士が教示する実践ノウハウ』(民事法研究会)、『65歳雇用時代の中・高年齢層処遇の実務』『新版 新・労働法実務相談(第2版)』(ともに労務行政研究所)がある。
神内法律事務所ホームページ http://kamiuchi-law.com/