純米大吟醸<獺祭>で国内市場のみならず世界市場のさらなる開拓をめざす旭酒造の桜井博志社長。今回の対談ゲストは、こちらも国内で培った“日本旅館メソッド”で海外のホテルやリゾート運営も手がける星野リゾートの星野佳路代表です。おふたりは異業種ながらも、父である先代との相反を経て家業を継ぎ改革・拡大を進めてきたという共通点もあり、急成長する地方企業として良い人材の確保・育成に悩みながら先行して取り組んできた星野代表のお話を軸に大いに盛り上がります。

文化を破壊したと批判されても
確信があればまったく気にならない

桜井 実は先週、軽井沢の「星のや」さんに伺ってきたばかりなんです。

星野 え!ありがとうございます。楽しんでいただけましたか。

桜井 特に名乗らなかったのですが、途中で担当の方が気づいてくださったのか、東京の獺祭Bar23にも行きました、と話しかけてくださって。すごく教育されていてビックリしました。

星野佳路(ほしの・よしはる)プロフィル/1960年4月、長野県軽井沢町生まれ。30代で家業の温泉旅館を継承すると、経営難に陥ったリゾートホテルやスキー場の再生、運営に手腕を発揮している。「星のや」「界」「リゾナーレ」などのブランドで国内35拠点を運営するほか、インドネシア・バリ島(2016年開業予定)など海外2拠点にも展開している。趣味は自然の山を滑るバックカントリースキー。(写真:住友一俊)

星野 実は、教育というのはあまりしていないんです。弊社に限らず、旅館・ホテルの最前線で働いているスタッフというのは、みな「目の前の顧客に喜んで欲しい!」と思っていますから。ただし多くの場合、マネジメント側が規律にはめこみ自由にさせないから、スタッフ側は仕事がつまらなくなって、果ては辞めてしまう。ですから、私たちは教育や研修を強化したり、仕事の枠や予算で社員をがんじがらめにしないで、彼らの自由度をできるだけ増してお客様に喜んでもらいたいという気持ちを自由に発散してもらえる環境づくりに腐心しています。

桜井 なるほど。すると、自然に社員のみなさんのモチベーションもあがってサービスも向上するわけですね。

星野 そうです。その中でもちろん失敗も成功も出てきますから、それはみなで共有して、全体のサービスレベル向上につなげています。教育としては、たとえばどんな仕事にどのぐらい時間をかけるべきか、という点はオープンに議論して共有していますね。一部屋当たりの清掃時間を35分から30分に短縮すれば、浮いた5分を別の顧客サービスに使えるなどスタッフの仕事の仕方に自由度が出てきますよね。単に利益を出すための効率化だ、なんていうとつまらなくなってしまいますが、時間短縮の意味を理解してもらえば、そのための工夫もいろいろ出てきますから。

桜井 なるほど。酒造りでも通じる話です。弊社では冬場だけ酒造りのプロである杜氏にきてもらって酒を仕込むという一般的な酒造りの仕組みは廃止して、社員だけで年間通じて細かくデータをとりながら酒造りをしているんですね。個々の社員が眦決して立ち向かわなくても酒造りができる環境を作るべきだと思っているのと同時に、みながそれぞれ持ち場で三振をとる勢いで力を出し切ってほしいので「社長を絶対信じるな」と言っています(笑)。あと、「費用対効果」という言葉は絶対に社内に向けて使わないことにしているんです、言った瞬間にクオリティの追求度に甘えが出る気がして。

星野 分かりますねぇ・・・。それはしかし、業界からは杜氏文化を破壊した、などと物議を醸したのではないですか(笑)。実は私も、2005年から旅館では一般的な「おかみ」制度を廃止したんです。司令塔だけがサービスを設計する思考や意思決定に携わる仕組みだと、周りは仕事がつまらないし、結局育たない。だから、思い切っておかみ制度はやめて、全員がおかみとしてサービスを考え、自発的に行動し、結果を出せばいいじゃないか、と。私の場合も旅館文化を破壊したとか、いろいろ波紋を呼びましたが。でも桜井社長は、周りにそう言われても嫌じゃなかったのでは・・・(笑)。

桜井 散々言われましたが、おっしゃるとおり別に嫌じゃなかったですね、全然(笑)。

星野 私もそうなんです。そうせざるを得ないという確信があるから、まったく嫌じゃなかった。お気持ちが非常によく分かります。

桜井 社員のモチベーションを向上されることを第一に考えてこられて、それを徹底されているのはすごいな、と思います。私なんかは、やはり最後は自分のやりたいように言ってしまいがちですから…。