星野 下げることもある、ということに同意してもらえれば上げられますよね。同時に、昇格についても、マネジャーは立候補制にしています。自分自身はできると思っているのに、上司がいやお前にはまだ無理だ、なんて言われると、自分にはできるのに…と、社員も悶々としているうちに辞めてしまいますから。昇格するとかなり給料も上がるのですが、やってみてやっぱり機能しなかったとなれば、本人も分かりますし、いったんマネジャーは外れるとなると給料も元に戻るわけです。
ただし、その際に「昇格」や「降格」など、上げたり下げたりという主旨の言葉になるとプライドが傷つくじゃないですか。だから私はそうではなくて、「発散」と「充電」と呼んでいます。マネジャーになるのは「発散」、仮にその時点の力が不十分で課題がわかったら「充電」期間に入り、それを繰り返しながらキャリアや年俸を上げていってほしいとお願いしています。しかも、今や組織内で発散と充電が頻繁に起こっていますから、みな慣れていくんですね。
桜井 なるほど、プライドというか人格と分けて評価すれば傷つかないし、頻繁に起こるというのもすごいですね。自分から手を上げて仮にマネジャーの力量がないと自身で分かれば、もっと力をつけたい、勉強したいという意欲もわくでしょう。弊社も昨年5月から新工場が稼働して生産量は前年より約5割増えたのに伴って社員も急増していますから、その育成というのが大きな課題です。
星野 人事部の誰かが抜擢してくれるのでなく、自分で自分のキャリアをコントロールしている感を増していくのが大事だと考えています。旭酒造さんの場合は、基本的にキャリアのスタートは生産現場からですか。
桜井 酒造りコンシャスな会社ですから、基本的には生産から入ってもらいます。美味しい酒ができれば経営もなんとかなると思っていますし(笑)。それと不思議なことに、酒造りがうまくできる、あいつは芽が出そうだなという人は、営業でもどこでも仕事ができる場合が多いですね。
最近は人材教育が間に合わず、中途採用で製造を経験していない人も中にはいますが、やはり会社の本質的なところを理解してもらうには製造を一度経験してもらうことが重要だと思っています。だいたい国内売上の半分は東京ですけど、酒造りをしているのは山口県岩国市のなかでも山奥のほうですから、そういうさまざまな意味のギャップも含めて理解してもらうのはなかなか難しいです。
(3/8火曜公開の後編につづく)