エアビーアンドビーの運命をギリギリで救った「決断」

 とりわけ、ステージ2「ビッグバン」は興味深い。2人によると、ユーザーの圧倒的支持を背景に訪れる「破滅的な成功」のシグナルを捉えられれば、市場でのひとり勝ちに至るが、捉えそこねれば、待っているのは文字通りの「破滅」、それも「成功したがゆえの破滅」なのだという。「破滅的な成功を生き延びるためには、失敗続きの実験が破壊的な製品やサービスへと変化する瞬間を先読みし、変化に対応する準備ができていなければならない。その瞬間を逃せば、成功も逃してしまう。価格やクオリティ、性能面で優れていたかもしれないのに、ユーザーが殺到する瞬間に必要な勢いをつくり出せずに」(同195ページ)失敗した例は後を絶たない。

 そして、エアビーアンドビーもまた、まさに自らの成功によって破滅しかけた企業のひとつである。

 空いた部屋や個人宅を貸し出すマッチングサービスのエアビーアンドビーも、同様の危機を体験した。創業から3年後の2011年に、顧客やホストから受け取る1日のメール数が数十通から、一気に1000通を超えはじめたことがあった。カスタマーサービス(エアビーアンドビーでは“航空隊”と呼ぶ)は突如、すべてのメールをさばき切れなくなった。そして、メールの返事が数時間遅れから数日遅れにもなると、顧客からのメール数も、いきなり“がくんと”落ちたのである。破壊的サービスを築こうとする企業にとって、破滅的な事態の始まりを告げていた。

「今が運命を決する重大なとき」と確信したエアビーアンドビーの経営陣は、人的資源の抜本的な改革に乗り出した。4ヵ月にわたってノンストップで従業員を雇い入れ、短期集中の厳しい特訓の末に、航空隊の数を3倍に増やした。その結果、創業後初めて、カスタマーサービスの対応能力がユーザーのメール数を上回り、その後も、経営陣は人的資源の充実に取り組み、安定した成長を確保している。

 以上のような例が示すように、ほぼどんな情報でも市場で手に入るのであれば、今後はますます「カスタマーサービスの質が、新製品や新サービスの成否を左右する」ことになる──ところが、それが理解できている企業は少ない。生身の顧客がレビューサイトに率直な感想を書き込むのは、製品のクオリティについてだけではない。どれほど優れた製品であっても、購入前後のサポートが悪ければ、評判を落としてしまう。しかも、顧客はたいてい悪いレビューから読んでいく。

ユーザーを、カスタマーサポートのパートナーとして活用する方法を学ぶことは、破滅的な成功を生き延びるカギである。初期ユーザーは、自分が他の人に先駆けて試した製品に対して“特別な感情”を持ちやすい。そのため、彼らは「何でも聞いて(アスク・ミー・エニシング)!」コミュニティの掲示板で、喜んで質問に答えたがる。

 メインストリーム市場に対応した経験も、その能力もないスタートアップにとって、初期ユーザーはとりわけ貴重な資産に違いない。カスタマーサービス部門を持つ既存企業が、初期ユーザーにアウトソーシングするということは、みずからのコントロール力を手放し、またそういう事態を促すことでもある。受け入れるのは難しいが、避けて通ることもできない。(同200-201ページ)

「破滅的な成功のシグナル」を見逃さない、それこそが、イノベーションを志す企業――それは、既存の大企業であろうが、ベンチャーであろうが関係なく――が意識すべき新しい時代のルールなのだ。(構成:編集部 廣畑達也)

次回は、任天堂が「共食い」覚悟でハード機を次々投入しなければならなかったのはなぜか?という問いから、ビッグバン・イノベーションの時代を生き残るための条件を検証する。3月14日公開予定。