リスク7.近隣諸国の経済サイクルの影響

 本連載の第2回目の図表1-7でも示したとおり、ミャンマーへの投資金額の国別順位で、シンガポールやベトナム、マレーシア、タイ、インドネシア等の近隣ASEAN諸国の占める割合は大きい。

 思えば、ミャンマーが周辺からの経済状況の影響を大きく受けるのは、別に新しい話ではない。以前、1990年代の半ばにおいて、第1次ミャンマー進出ブームがあった。その当時は、ミャンマーにおける民主化を期待させる動きもあったことと相まって、日本でも今に劣らぬミャンマー進出ブームが巻き起こり、実際、当時製造業から、不動産、インフラ関連を含む企業の進出が行われた。ところが、1997年に始まったアジア通貨危機の勃発で、途端に状況が一変する。周辺ASEAN諸国の経済的停滞が明らかになると、それに引きずられるようにミャンマーに対する投資熱も一気に低下したのだ。

 さて、そんな中でアジア開発銀行(ADB)は、2016年の東南アジアの域内総生産(GDP)成長率見通しを、2015年3月の6.3%から、同年9月には6.0%に引き下げており、このような下方修正は2014年以降頻繁に行われてきた。軍事クーデターにつながったタイの政情不安に加え、インドネシアやマレーシアでコモディティの輸出価格が下落していることが背景だ。今後のミャンマーへの影響も含めて、気になるところである。

リスク8.事業戦略立案のための情報が入手できない

 ミャンマーの人口規模として、従来、国際機関などは約6000万人台と推定数値を発表していた。これは、国軍支配下の1983年にミャンマーが前回国勢調査を実施した際の人口である約3500万人から、一定期間を定率で伸ばしていた推計値だった。ようやく2014年になって31年ぶりに国勢調査を行い、ミャンマー移民・人口省は8月30日に暫定結果を公表した。その結果、総人口は約5141万人で、従来国際機関などの提示していた推計より1000万人以上少ない水準だった。加えて言うと、その時発表された数値も、一部少数民族の人口は正確なカウントができないため、依然として本当の意味では正確性に疑義が残っている。

 現地への進出を行う際には、その市場の事前調査が不可欠だ。その際には、ターゲットとしている市場の現在の規模、想定される顧客の概況、競合他社の現況をはじめとする情報入手が重要になる。ところが、日本で普通に市場調査を行っている感覚で現地に入ると、すぐさま大きな困難に直面する。まず、こういった業界でまとまった数値を確保することは極めて困難だ。日本の感覚では、監督省庁に行けばその業界の情報がある程度入るのではと思いがちだ。

 だが、人口ですらまともな数値がなかったミャンマーだ。個別業界、しかもそれがある程度現地になじみのない業種の情報や小分類の業種単位の情報などでは、途端にお手上げとなる。それで、競合他社の状況を探ろうとすると、基本的に売り上げ水準ですら実態とどう見ても乖離している情報しか入ってこなかったりする。ミャンマーにおいても、非上場企業にとって正確な情報を開示することは、その分だけ税金がとられるために誰もやりたがらないのだ。

 こうした中で進出計画を作成しなければならない企業担当者は大変だ。なぜそんな基本的な数値が取れないのかと、本社からプレッシャーをかけられる中で、現地を駆けずり回ることになるのだ。なお、この点についてはあらためて本連載にて詳述したいと思う。