作家の沢木耕太郎は『不敬列伝』という作品で昭和天皇を「見えない人間」と表現した。知れることがあまりに少なく、人物像がうかがい知れないという。
そんな昭和天皇の人物像が少し垣間見える資料がある。渡辺誠著『昭和天皇 日々の食』(文藝春秋)だ。天皇の食事のすべてを預かる宮内庁大膳課に勤めていた著者が、昭和天皇の日々の食事についてまとめたものだ。
紹介されている一部をまとめる。朝食は洋風。オートミールかコーンフレーク、それに野菜料理1品とサラダ、ピーナツかギンナンを3粒。昼食と夕食は和食と洋食を交互に組み合わせており、例えば1984(昭和59)年2月15日のお昼は大根、コンニャク、ちくわなどのおでんが食卓に上っている。それに麦入りご飯とお味噌汁、白魚の桜煮、春菊のごまあえ、漬物。白魚の桜煮は淡い味付けの小鉢料理だと思われる。夕食はコンソメスープに温野菜入りの若鶏の煮込み、青豆のクリーム煮、サラダにパン。簡素だが十分な献立である。また食事量は驚くほど少なかったという。
好物はふかした皮付きのサツマイモとウナギ。逆に嫌いな食べ物はフォアグラで、決して手を付けなかったそうだ。こうしたことを知ると、そのお人柄が見えてくるような気がする。