米国がデフレの入り口に立っている。景気の先行き不安が各所に強く作用し、物価が持続的に下落する――そのデフレ懸念が、濃厚である。
米国の消費者物価指数(CPI)のうち変動の大きいエネルギー・食品を除いたコア指数が、歴史的な低水準で推移している。4月から6月まで連続して0.9%を記録、3ヵ月連続で1%を切ったのは統計をさかのぼれる1958年以降初めての事態だ。米国は、この50年間経験したことのない経済状況に直面していることになる。このままでは2011年度中にCPIがゼロまたはマイナスになるのではないか――クルーグマン・プリンストン大学教授など一部のエコノミストたちは、デフレの懸念を明確に口にし始めている。
2007年にサブプライム問題が発生し、08年にリーマンショックを引き起こして世界不況の震源地となった米国は、昨年の09年には早くも経済が回復基調に入ったかに見えた。金融危機の元凶となった住宅価格は下げ止まり、大企業の業績は回復し、巨大金融機関は復活の自信を隠さず、株価も上昇し、危機はすでに脱出、景気は回復、上昇すると、大統領を始め政府高官も次々、強気の発言をした。
だが、今年に入って変調の兆しが見え始め、6月に明らかにおかしくなった。
例えば、雇用不安である。6月の米国就業者数(前月比)は、半年振りに減少した。08年1月に増加から減少に転じ、もっとも悪化した月は80万人以上も減少して奈落の底の深さを見せ付けた。そして、09年の年末についに増加に好転したのだが、10年5月に至っても40万人強の増加でしかない。米国の労働市場は柔軟な構造を持っており、景気が悪化すれば雇用が急減するが、回復すれば急増する特質を持つ。それなのに、今回は雇用する力が戻らないまま、6月に再び減少に転じてしまったのである。ちなみに、失業率は昨年秋から9.5~10%程度で高止まりしている。
住宅着工件数も回復していない。08年6月以前は毎月100万戸を越えていたが、現在は60万戸程度に過ぎない。それでも、業界内からは作りすぎだという指摘がある。住宅ローン破綻者が所有、あるいはその物件を差し押さえた金融機関が抱える潜在的在庫住宅が今後、大量にマーケットに放出されるからだという。住宅関連の不振の原因は、はっきりしている。米政府が財政を出動し、景気回復の目玉策として打ち出した新規購入に関する減税策が今年春に期限切れを迎えたからだ。カンフル剤が切れたら、その反動は予想を大きく超え、住宅購入数は前月比で30%を超える減少となった。眼を覆うほどの悲惨な数字である。住宅関連の物価も6月、前年同月比で0.6%減少した。