「自分の行動で部下が何を感じるか」に
敏感であるべし

   部下の気持ち、ないがしろにしてない?

この事件のポイントは、「被害女性が加害者を訴える」という構図ではなく、セクハラの事実を認め、懲戒処分と降格を行った会社に対して、加害者が「処分が重すぎる」と主張して訴えを起こしたという点です。

一審では「処分は正当」、二審では「重すぎる」と判断が割れ、最高裁にまでもつれ込んだことで、判断が注目されました。

実は、この会社は、セクハラ防止を重要課題と位置づけ、「セクハラ禁止文書」を作成して従業員に周知させたり、セクハラに関する研修への毎年の参加を全従業員に義務づけていたのです。

最高裁は、加害者の課長代理2人が、本来セクハラ防止のために部下を指導すべき立場にあったのに、自らセクハラ行為を繰り返していたこと、またセクハラが原因で被害女性の1人が退職していることから企業秩序への影響は看過できない、としました。

また、この課長代理2人は、「被害女性が明白な拒否の姿勢を示さなかった」と主張しましたが、最高裁で一蹴されています。

その理由は、「職場におけるセクハラ行為については、被害者が内心でこれに著しい不快感や嫌悪感を抱きながらも、職場の人間関係の悪化等を懸念して、加害者に対する抗議や抵抗ないし会社に対する被害の申告を差し控えたり、躊躇したりすることが少なくないと考えられる」というものでした。

つまりセクハラは、必ずしも被害者の目に見える反応のみによって判断されるわけではないということです。何をセクハラととらえるかは被害者によって異なりますが、自分の行動が相手の心にどんな影響を与えているのか、課長は人一倍敏感であるべきだと言えるでしょう

神内伸浩(かみうち・のぶひろ)
労働問題専門の弁護士(使用者側)。1994年慶応大学文学部史学科卒。コナミ株式会社およびサン・マイクロシステムズ株式会社において、いずれも人事部に在籍社会保険労務士試験、衛生管理者試験、ビジネスキャリア制度(人事・労務)試験に相次いで一発合格。2004年司法試験合格。労働問題を得意とする高井・岡芹法律事務所で経験を積んだ後、11年に独立、14年に神内法律事務所開設。民間企業人事部で約8年間勤務という希有な経歴を活かし、法律と現場経験を熟知したアドバイスに定評がある。従業員300人超の民間企業の社内弁護士(非常勤)としての顔も持っており、現場の「課長」の実態、最新の労働問題にも詳しい。
『労政時報』や『労務事情』など人事労務の専門誌に数多くの寄稿があり、労働関係セミナーも多数手掛ける。共著に『管理職トラブル対策の実務と法 労働専門弁護士が教示する実践ノウハウ』(民事法研究会)、『65歳雇用時代の中・高年齢層処遇の実務』『新版 新・労働法実務相談(第2版)』(ともに労務行政研究所)がある。
神内法律事務所ホームページ http://kamiuchi-law.com/