久保田 競
(Kisou Kubota)
1932年生まれ。医学博士、京都大学名誉教授。世界で最も権威がある脳の学会「米国神経科学会」で行った研究発表は日本人最多の100点以上にのぼり、現代日本において「脳、特に前頭前野の構造・機能」研究の権威。2011年、瑞宝中綬章受章。『ランニングと脳』『天才脳をつくる0歳教育』『あなたの脳が9割変わる!超「朝活」法』など著書多数。

 ここで、月齢に対応する働きかけの例を2~3つ紹介しましょう。

ゴロゴロ、寝返り

 生後1ヵ月からは、オムツ替えの時間を利用して、手や足をさする、動かす、いわゆるオムツ体操(詳細は『赤ちゃん教育――頭のいい子は歩くまでに決まる』124~137ページ参照)をしますが、それに加えて平衡感覚をきたえるための働きかけとして、床にあお向けに寝たまま、身体を左右にゴロゴロ動かします。

 はじめは、頭の動きは少ないのですが、だんだんお母さんの誘導に合わせて、うまく動かせるようになります。

 運動を覚えさせるには、少しずつ、「回数」を多くすることが大切です。応用として、「タオルぶらんこ」や「高い高い」など、お母さんやお父さんの足や身体を使ってお子さんを動かしましょう。

 話をしながら、歌でリズムをとり、楽しい運動時間を確保できれば、身体を動かすことが好きな子になります。

 逆立ちやでんぐり返しも、早くから丁寧に時間をかけて教えてあげると、おすわりができるころには、上手に喜んでやるようになります。

 赤ちゃんの運動能力の個人差は、どのように親が赤ちゃんに関わり、適切な働きかけをするかにかかっています。

 平衡感覚をきたえるためと難しく考えずに、体を動かすことを楽しくくり返して行うことができればいいのです。

 身体の動きがいいか、身体を動かすのが好きかは、動きが激しい幼児期の行動にはっきりと現れます。

 お母さんがどこに愛情を込め、あきずに働きかけたかが如実に出ます。
 その効果は、まず二足歩行がいつごろできたかで、大まかな判断ができます。
 早く歩けることは発達がよいと言えます。つまり脳の発達がいいのです。
 すると、身体の動きのぎこちなさがなくなり、いろいろな知的好奇心も旺盛になるように導くことも容易になります。

≪競博士のひと言≫
 頭が動いても、手や足がうまく動いて、安定した感じが平衡感覚(バランス)です。この感覚がうまく働かないと、人間が生活する3次元の世界でよい姿勢をしたり、うまく運動したりすることができません。

 ネコを頭の上に放り上げても、うまい姿勢をとって着地します。
 ネコの頭の位置が変わっても、安定した姿勢がとれるのは、耳の奥にある内耳(ないじ)に受容器があり、加速度(動きのスピードが変わる)が加わると、直線方向(上方、下方、前方、後方)や、回転方向(水平、上下、前後)へ頭部が動き、姿勢と眼球の動きが安定するからです。

 このときに働くのが、“前庭迷路反射(ぜんていめいろはんしゃ)”です。
 加速度の情報は、前頭前野、運動前野や「体性感覚連合野」で処理されます。