ベンチャー企業の新卒採用は
「学歴重視」へと傾き始めたのか?
今回は、成長を続けるベンチャー企業・株式会社ケーエムケーワールドの創業経営者である車陸昭氏(44)に、「学歴と新卒採用」についての考えを聞いた。車氏は、こう明言する。「新卒の採用は学歴だけで判断することはしないが、学歴を重んじた採用は行っている」「大企業の“学歴を重視した採用はしない”というのは120%タテマエだ」と――。
車氏はIT業界で社員の採用に強いこだわりを持つことで知られ、メディアに登場することも少なくない。筆者はそんな車氏に関心を持ち、2010年から5回ほど取材を行ない、氏の意見を聞いてきた。現在、同社の役員の最終学歴は早稲田大が2人、法政大が1人。社員の中には上智、青山学院、学習院、明治大などの卒業者が多くいる。
車氏はかつて勤務した大手音響機器メーカー・ケンウッド(1995年入社)において、学歴を重視した採用が行われていたことや、高学歴な社員が高い業績を上げる傾向があるという現実を、目の当たりにした。自らが経営するケーエムケーワールドでも、新卒採用における「学歴」の意味や価値を常に考え、改善を続けている。同社は創業から15年目を迎え、売上高が10億円を超え、安定成長期に入ったと言える。
車氏の話を聞くと、当連載で筆者が問題提起してきた「学歴病」を解決するための1つの方策が見えてくる。
――新卒の採用を、学歴という観点からどのように進めていますか。
大企業は経営体力があるので、新卒を「全員大卒」で雇うこともできるでしょう。しかし当社には、そこまでの体力はありません。IT業界では、人材育成に時間がかかるのです。たとえば、システム開発をするエンジニアとして新人を雇い、ある程度のレベルに育てあげるのに、3~5年は必要かと思います。
そのようなことを踏まえ、エンジニアなどとして新卒を雇う場合、学歴については少なくとも2つの観点から採用しています。
1つは専門学校卒の人、もう1つは大卒の人。専門学校卒の新人には、即戦力として仕事をしてもらうことを期待しています。そのような力を十分身に付けた人を面接試験などで見定めて、内定を出します。
大卒の人には、4~5年以内に1人前になってほしいと思っています。実は彼らは、入社後しばらくは、専門学校卒の人と比べて仕事をするスピードが遅く、精度は低い。これは、大学でITを専門的に学んでいないことに大きな理由があると思います。
躍進するベンチャー企業の1つの特徴が、ここにある。筆者の取材経験を基にして言うと、多くのベンチャー企業は売上高10億円が見え始めた時期に、いわゆる「10億円の壁」にぶつかり勢いを失う。売上高5~8億円で足踏みをして、やがて「名もなき中小企業」になっていく。その後、倒産や廃業する企業は後を絶たない。