JALは、絞り込むべき最重要価値を「スピード」に決断し、徹底訴求。見えるコピーとして、相手を名指しでのぞみ号を挑発したのである。

事例じゃなく、事件です。<br />なぜ、JALとJR東海が<br />大ゲンカ!?神田昌典(Masanori Kanda)
経営コンサルタント・作家。株式会社ALMACREATIONS代表取締役。日本最大級の読書会「リード・フォー・アクション」主宰。上智大学外国語学部卒。ニューヨーク大学経済学修士、ペンシルバニア大学ウォートンスクール経営学修士。コンサルティング業界を革新した顧客獲得実践会を創設(現在「次世代ビジネス実践会」)。のべ2万人の経営者・起業家を指導する最大規模の経営者組織に発展。わかりやすい切り口、語りかける文体で、従来のビジネス書の読者層を拡大。「ビフォー神田昌典」「アフター神田昌典」と言われることも。『GQ JAPAN』(2007年11月号)では、「日本のトップマーケター」に選出。2012年、アマゾン年間ビジネス書売上ランキング第1位。著書に、『あなたの会社が90日で儲かる!』『非常識な成功法則【新装版】』『口コミ伝染病』『60分間・企業ダントツ化プロジェクト』『全脳思考』『ストーリー思考』『成功者の告白』『2022――これから10年、活躍できる人の条件』『不変のマーケティング』『禁断のセールスコピーライティング』、監訳書に、『ザ・コピーライティング』『伝説のコピーライティング実践バイブル』『ザ・マーケティング【基本篇】』『ザ・マーケティング【実践篇】』などベスト&ロングセラー多数。

 このコピー、なかなか面白いが、戦略なくしては生まれてこなかった。
「見えない戦略」から「見えるコピー」にはこんな過程があったはずだ。

 秀逸な点が3つある。

 1. ターゲットを明確にしている
 2. 比較対照して、自社の優位性(USP)を絞り込んでいる
 3. USP(独自の強み)を巧みにキャッチコピー化している

 競合相手にキツイ皮肉を込めたコピーは賛否両論分かれるところもあるが、この事例から学べるのは、

「新幹線乗客(ターゲット)×スピード(提供価値)」

 という戦略を考えぬいている点だ。

「新幹線より、飛行機の方がずっと速いですよ」と言いたいのだ。

今度は、“陸の王者”がやり返す

 2003年にJAL広告でケンカを売られた後、JR東海も黙ってはいなかった。2007年にちゃんとやり返している。

「地球温暖化防止のために、できること。
 新幹線でECO出張
 東海道新幹線のCO2排出量は航空機の約10分の1。」

 JALの飛行機が「スピード」なら、JR東海の新幹線は航空機をにらみつけ、「環境にやさしい」を訴求したわけだ。

「飛行機乗客(ターゲット)×環境にやさしい(提供価値)」

飛行機なんかより、環境にやさしい新幹線を選びましょうね」が戦略で描きだされたメッセージだ。

 日本を代表する大企業が「コピーライティング」を通じて、相手を名指しで呼び合い、ビンタを張り合っている。
 野次馬として見ている分には面白いが、これから日本の将来を担う子どもたちへは、大人の手本として見せられるものではない。