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コリア・ITが暮らしと経済をつくる国

「忘れられる権利」ガイドラインが実践運用へ

ネット被害救済への期待と付随する問題点

趙 章恩 [ITジャーナリスト]
【第7回】 2016年4月15日
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海外の大手事業者も
ガイドラインを守る

 やはり第2回で紹介したように、韓国は半世紀にもわたって全国民に住民登録番号を持たせ、今日、これをスマートフォンの購入などあらゆる生活シーンでインターネットを通じて登録させてきた。

 その結果、利便性の一方で、他人の住民登録番号を盗んで悪用するといった犯罪が多発する事態も招いてしまった。

 それだけに韓国人は、ネット上に掲載された自身に関する否定的な内容、個人情報、写真はもちろん、自分を語って第三者を誹謗中傷する悪意ある行為にも敏感にならざるを得ない。そんな状況が、「忘れられる権利」の必要性に現実味を持たせたのだろう。

 ただ、諸外国と同様に、「忘れられる権利」と「知る権利」や「表現の自由」との駆け引きは、常について回る問題である。インターネット事業者などからは、自分に不利な事実の書き込みを全て削除するのは、他人の「知る権利」の侵害ではないか、また、「忘れられる権利」の乱用が「表現の自由」を委縮させる結果につながるのでは、という意見が挙げられた。

 現在の韓国の法律では、ネット上に公開されている場で特定人に関する事実を書き込んだ場合、それによって当事者が名誉を傷つけられたと思えば名誉棄損に当たると定められているが、ネット上では感情論も飛び交いやすいだけに、「インターネット上の名誉棄損ほど曖昧なものはない」という冷めた見方が国民の間でも広がっている。

 将来もしも「忘れられる権利」が認知された場合には、こうした曖昧さが問題になるであろうという予測の下、放送通信委員会は、前述の「ガイドライン」の施行を目前に控えた今も、削除できる掲示物の範囲や概念をできるだけ明確にする作業を行っているようだ。

 もちろん、「ガイドライン」は法律とは異なり、順守への強制力はない。よって、インターネット事業者は自律的にこれを守ることになるが、放送通信委員会によると、「グーグルやフェイスブックなど海外の大手インターネット事業者は、韓国内でのサービス提供においては、『ガイドライン』を守る」と回答したという。

 「忘れられる権利」をめぐる議論は、今後、日本でももっとさかんになるかもしれない。韓国でのこうした動きに注目し、ぜひ、参考にしてほしいと思うのだ。

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趙 章恩
[ITジャーナリスト]

ちょう・ちゃんうん/韓国ソウル生まれ。韓国梨花女子大学卒業。東京大学大学院学際情報学修士、東京大学大学院学際情報学府博士課程。KDDI総研特別研究員。NPOアジアITビジネス研究会顧問。韓日政府機関の委託調査(デジタルコンテンツ動向・電子政府動向・IT政策動向)、韓国IT視察コーディネートを行っている「J&J NETWORK」の共同代表。
IT情報専門家として、数々の講演やセミナー、フォーラムに講師として参加。日刊紙や雑誌の寄稿も多く、「日経ビジネス」「日経パソコン(日経BP)」「日経デジタルヘルス」「週刊エコノミスト」「ニューズウィーク」「リセマム」「日本デジタルコンテンツ白書」等に連載中。韓国・アジアのIT事情を、日本と比較しながら分かりやすく提供している。

コリア・ITが暮らしと経済をつくる国

韓国の国民生活に、ITがどれほど浸透しているか、知っている日本人は意外に少ない。ネット通販、ネットでの納税をはじめとする行政サービスの利用、公共交通機関のチケットレス化は、日本よりずいぶん歴史が古い。同時に韓国では、国民のIT活用に対する考え方が、根本的にポジティブなことや、政府が規制緩和に積極的で、IT産業を国家の一大産業にしようとする姿勢などが、IT化を後押ししていることも事実である。

一方の日本は、どうして国を挙げた大胆なIT化の推進に足並みがそろわないのか。国民生活にITが浸透している韓国の先行事例を見ながら、IT化のメリットとリスクを見極めていく。

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