「フリーミアム」は成功するか

佐渡島 いままではエンターテイメントの企業は、エンターテイメント産業としてしか活躍できなかったんですけれど、そうでない時代がくるんじゃないかなと思っているんです。

 たとえば、エンターテイメントでありながら、その作品の持ってる世界観をつくりだすと、アパレル業界でも実現できますよね。また、作品の世界観でテーマパークをつくり出せば、旅行業界とかにも入っていける。

 ある種、エンターテイメントビジネスは、ライフスタイル全部に入っていくことができるんです。違いは「どこからメインでお金をもらうか」っていうことだけになってくる。

入山 著書にも書かれてますよね。本当にそうだと思います。

佐渡島 僕は、エンターテイメントとITを組み合わせたビジネスを考えています。ITって、いたるところに入っていける可能性があると思うんです。ITというツールであらゆる産業につながって、作家のためのキャッシュポイントを、多様な産業から正しく選ぶっていうことが重要だろうなと思っているんです。

入山 おもしろいですね。でも、結構難しいし、大変ですよね。

 たとえば、いま、ニューズピックス(NewsPicks)とかDropboxみたいなフリーミアム(Freemium)ビジネスが流行っているじゃないですか。でも、NewsPicksはさておき、一般にフリーミアムはほとんど失敗してる。無料のコンテンツを味わえるすごいサービスなんだけれど、どこかで課金しないとビジネスとして成り立たないんですよね。まだ、課金ポイントを見つけるのが難しいのが現状なんですよね。

佐渡島 これまでのエンターテイメント業界のなかでは、雑誌が売上で苦労しています。でも実は、漫画は業績がよくなっているんです。出版業界における雑誌が占める割合が大きかったから、業界全体が逼迫しているように見えてるんですけどね。

 そこから、僕が思うのは、世の中のほとんどのことは、フリーのものとストックのもののバランスが大切なのではないかということです。ほとんどの企業がフリーのことだけやっていたり、ストックのことだけやっていたりする。しかしそのなかで、漫画だけは違っていた。

入山 漫画は、フリーとストックのバランスがよいと?

佐渡島 雑誌はフリーに近くて、コミックはストック型。漫画は、1個のコンテンツを2回組み合わせて使っているんですよ。自分たちの産業というか、事業の中でフリーとストックをやってのけている。こうしたビジネスモデルが、今後生き残っていくんだろうなと思ってます。

 フリーミアムの考え方って、フリーミアムでやったあとに、どうするのっていう戦略がないんですよね。そのフリーミアムで上がった知名度を、ツイッターアカウントとか、フェイスブックアカウントとして、ストックしていくような仕組みをつくるとか、そのストックしたものを再度ビジネス化する検討とかが必要だと思うんです。

入山 いまのところ、そうやってマネタイズする発想があまりないですよね。

佐渡島 そう。ただただ、ずっとフリーミアムでやっていて、拡大していくっていうのは、ダメだろうなと思っているんです。

入山 意外とみんな、それを考えないで始めているんですよね。いまのところ正解が見えないまま買収されるとか、BtoBに舵を切ろうとするとか、もがいてます。フェイスブックとニコニコ動画はうまくいっているようなので、少しずつそういう成功例が出ていくのを注目したいですね。

コミュニケーションがエンターテイメントの要

佐渡島 ニコニコ動画なんかも、ユーザーのコミュニケーションのところで、課金に成功しているんですよね。

入山 そうですね。

佐渡島 世の中が豊かになればなるほど、結局はコミュニケーションのところでしか課金できないと思うんです。そして、コミュニケーションにも質があって、「よっ!」て声をかけるような気軽なコミュニケーションと、深く数時間話し込むコミュニケーションには差がありますよね。実は、深く数時間、人と話し合うのって、なかなか難しい。

入山 そうですね、テーマが提示されていないと難しいです。

佐渡島 フェイスブックでは、現実で会ってるということを拠り所にして、コミュニケーションが生まれますよね。

 エンターテイメントっていうのは、エンターテイメントの作品をもとに、コミュニケーションが生まれるっていう仕組みなんだろうな、と想定しているんです。生まれたコミュニケーションのところで、課金していくシステムをつくるんだとしたら、エンターテイメントの周りに、コミュニケーションが生まれる仕組みをつくっていかない限り、エンターテイメントはやっていけなくなってしまう。

 たとえば、今は『宇宙兄弟』の周りに、コミュニケーションが生まれているんです。定期的にファンのコミュニケーションを促すために、グッズをつくるといった、作品以外のものをどんどん提供していく必要性があるんじゃないかって思ってるんですよ。

 なるほど。ちょっと違う発想かもしれませんけれど、佐渡島さんの発想は、ディズニーに近いのかもしれないと思いました。ミッキーというコンテンツがあったうえで、映画やディズニーランドなど課金する仕組みをつくる。家族や知らない人同士がコミュニケーションできる場を提供しているんですよね。こういう発想って、一層大事になっていくんだろうなと思います。

佐渡島 はい、場をつくるってまさにそうですね。

※明日に続きます。