薬品事業の自己矛盾
―究極、薬はいらない

撤退か? 我慢か?<br />リーダーに必要な「粘り」とは?藤沢 久美(ふじさわ・くみ)シンクタンク・ソフィアバンク代表
大学卒業後、国内外の投資運用会社勤務を経て、1996年に日本初の投資信託評価会社を起業。同社を世界的格付け会社スタンダード&プアーズに売却後、2000年にシンクタンク・ソフィアバンクの設立に参画。2013年、代表に就任。文部科学省参与などを務める。
テレビ番組やラジオ番組のパーソナリティとして、15年以上にわたり1000人を超えるトップリーダーに取材。成長企業のリーダーたちに学ぶ「リーダー観察」をライフワークとしている。
著書に4万部を突破した『最高のリーダーは何もしない』(ダイヤモンド社)など。

藤沢】真面目な社員さんが多い会社と言っても、化粧品、アイス、農業、レストランなど、意外な事業が次々と生まれていますよね。たとえば、ファーム事業というのはどういう発想から生まれたんでしょうか?

山田】僕が種を蒔いている部分もあると思います。ファーム事業をやろうと思ったのは、ひと言でいえば、必要なことだから、です。

僕たちは薬品の事業をしているわけですけど、これをやればやるほど自己矛盾に気づくんですよ。だって、薬って「病気の人を助けるためにある」とも言えるけれど、「病気の人がいるから薬が売れる」とも言えるわけです。極端な話ですが、みんなが健康で薬なんていらない社会がいちばんいいはずだし、それを目指すべきでしょう? だから、究極的には薬なんて、必要ないほうがいいと僕は考えているんです。

そうなると、健康が大事だし、健康になるためには食べ物が大事だし、いい食べ物のためには農業が大事になる。これから20年、30年先を考えると、僕らなりに「食」を提案していくというというのは絶対に必要なことだと思ったんです。

藤沢】なるほど、一貫性がありますね。ということはキーワードは「健康」でしょうか。

山田】あとは「地域とともに」という側面もあります。個別の企業がその意識をもたないと、日本の国土は荒廃していってしまう。地域のために自分たちにできることがあったらやりたいという思いがありますね。

藤沢】一方で、こうした新規事業については、株主たちから「いつになったら採算が合うんですか?」などと突っ込まれたりもしませんか?

山田】ええ、言われますね。会社がつぶれたら元も子もないので、会社が傾くまでやるわけにはいきませんが、幸い、当社は本業がしっかり回っている。海外事業にしても、まだ採算が取れていないアフリカのような地域もありますが、その分アジアがかなり頑張っています。経営者としては、利益が出ている事業だけでなく、将来につながる事業に先行投資しないわけにはいかない。もちろん倒れない程度にね(笑)。

撤退か? 我慢か?<br />リーダーに必要な「粘り」とは?「真面目な社風にもかかわらず、新規事業が生まれ続ける秘訣は?」(藤沢氏)

藤沢】一方で、儲かった分を自分たちに還元するという会社もありますよね。役員報酬を増やすとか、社員にボーナスを出すとか、自社ビルを大きくするとか…。そうしないのはなぜでしょうか?

山田】ひと言でいうと、新しいことのほうが面白いからですね。「そんなおもろそうなこと、僕もちょっと入れてよ」みたいな(笑)。根本にあるのは好奇心ですね。

藤沢】山田さんって、好奇心めちゃくちゃありますよね。

山田】農業というのは、言ってみれば地域の生態系に参加することじゃないですか。生物学が好きな人間としては「そんなおもしろいこと、やらんのはもったいない!」と。

しかも、外に出て行けば出ていくほど、素敵な人がいろんなところにいる。とくに若い世代には素晴らしい人たちがたくさん出てきているから、その人たちから学んで、その人たちと一緒に何か仕事をしていきたい。そういうところで得られるエネルギーというか、学びというか、可能性の発見というか、そういうことは新しいビジネスのチャンスの芽でもあり、いずれ還ってくると思っています。ただ、基本的には儲かる、儲からないの話じゃないんです。