生物に学ぶ―やめるけどやめない

藤沢】一方で、すべての新規事業がうまくいくわけではないですよね。「これは採算が合わないからやめよう」といったことはどうやって決断されているのでしょうか?

山田】そこが難しい。ある程度は粘らないと芽が出ないこともあるし、固執すると深みにはまってしまう。

藤沢】成功した人に「なぜ成功したのですか?」と聞くと、「成功するまであきらめずにやり続けたからです」と言われることがありますよね。でも、現実的にはやり続けてじり貧になる場合もあるはずなんです。そのあたり、山田さんはどうやって見極めているのかが知りたいです。

山田】ロートの「NEVER SAY NEVER」の根本にある考え方、これを当社では「ネバネバ精神」と呼んでいるんやけど、僕は粘るためには「1回死ぬ」というのも大事なんじゃないかと思っているんです。

多年草は1年で命を終えるのに、地下に根っこが残っていてまた出てくることがある。それと同じで、ダメだった事業を無理矢理生かして粘るのではなく、いっぺんやめることも大事です。ただ、地面の下ではそこで得たものが粘り強く生き続けているはず。そういう「粘り方」もあるはずやと思います。

藤沢】そのプロジェクトに取り組んだ人たちは、プロジェクトが失敗に終わったとしても、何かしらの学びを得ているはずだと。

山田】そう。失敗した事業、失敗した製品でも、そこから得られるものっていっぱいあるはずなんです。だから、いったん消えたように見えても、あとになるとまたどこかで芽が出る。ややこしい言い方ですが、「やめるけど、実はやめない」みたいなことって、ビジネスではすごく大事やと思ってるんです。

撤退か? 我慢か?<br />リーダーに必要な「粘り」とは?「どんな事業からでも学びは得られる」(山田氏)

藤沢】しかし、短期的な失敗にどう向き合うかというのは難しいですよね。私の知っているある企業は「挑戦! 挑戦!」と言って膨大な投資をしていったら、惨憺たる結果になって、かなりの負債が残ってしまった。そこで今度は、新しい投資を減らしながら、過去の失敗を分析しようということになったんですが、そうすると今度は、みんなの元気がなくなってしまったんです。

山田】よくわかります。そこはね、僕は生物に学ぶべきやと思うんですよ。生物って飢餓のときもあれば、飽食のときもある。つまり、直線的に発展していく工業的なモデルではなくて、循環型の生態系的なモデルで考えたほうがいい。

藤沢】飢餓があったり飽食のときがあったりが普通なので、失敗をして凹む時期があるのは当然だということですね。だけど、生物も絶滅してしまうことがありますよね。会社も「この飢餓で潰れてしまうのではないか?」という不安に押しつぶされそうになることがあると思いますが、それを乗り越える信念はどこから生まれるのでしょうか?

山田】信念というより、最後は神様の決めることだと思っています。結局、運命を自分で操ることはできへん以上、やるべきことをやっていれば、それはそれで意味があると思う。「間違えたことはやってなかったけれど、それでも潰れてしまった」ということであれば、それはそれでしょうがないと思いますね。

藤沢】だからこそ、やるべきことをやらなきゃいけないし、間違ったことはしてはならないと。