日本の財政拡大提案が独英の理解を得られない理由現在の世界経済の問題は短期的な財政拡大では解決できない

 安倍晋三首相のヨーロッパ歴訪は、サミットに向けて、財政拡大と為替介入について欧州諸国首脳の理解を求めることが目的だった。しかし、意図したような理解は得られなかったようだ。

 それも当然で、現在、先進諸国が直面する問題は、財政拡大や為替操作のような短期的マクロ政策では解決できないからだ。世界経済の現状についての的確な理解の下に、構造改革の重要性を認識することが必要だ。

現在の世界経済の問題は
短期的な財政拡大では解決できない

 財政支出はGDPの構成要素なので、それを増大すれば、短期的には必ずGDPの成長率は高まる。しかし、長期的な意味での潜在成長率がこれによって高まることはない。

 そして、現在の先進国経済が直面している問題は、まさしく、潜在成長率の低下である(このことは、しばしば「自然利子率の低下」と表現される)。

 だから、現在、世界経済が抱える問題は、短期的な財政拡大によって解決できるものではない。むしろ、財政赤字が増大すれば、長期的な問題はより深刻化するだろう。

 したがって、短期的な成長率引き上げのために財政拡大を行なうなどとする国はない。

 ドイツのメルケル首相の承認を得られるかどうかが最大の難関と考えられていたようだが、イギリスのキャメロン首相からの理解も得られなかった。

 彼らの反応は、構造改革成長戦略のほうが重要だという認識である。まさにこのことこそが問題なのだ。

 安倍首相が協調的財政拡大策を提案するのは、1985年のプラザ合意における「機関車論」(日本と西独が財政支出を拡大する)が念頭にあるからかもしれない。このときに問題になったのは、日本やドイツの製造業の競争力が強く、アメリカの製造業、とくに自動車産業が縮小したことである。

 これは、為替レートの調整によってかなりの程度は解決される問題であった。したがって、為替レートへの協調介入と機関車論が唱えられたのは、ある意味では自然な流れであった。