よく、ドル円為替相場が円高に大きく振れた時など、財務大臣が「経済のファンダメンタルズから見ておかしい」といった発言をする。財務大臣自身が分かっているかどうかはおいておくとして、読者のみなさんは発言の意味がよく分からないと思ったのではないだろうか。
それは当然で、例えば、通貨・株式などの金融市場は「経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)」では動かない。筆者はメガバンクにおいて国内及び海外で市場取引を行いながら、長年、専門の一つとして経済学的にも研究してきた。実はもっと直接的な「金融市場のファンダメンタルズ」があるのである。
まず誤解があるのは「経済のファンダメンタルズ」とは、“経済”そのものの条件であり、具体的には、失業率・インフレ率・経済成長率・財政赤字・経常収支・貿易収支等をいう。これらは通貨や株式など、金融市場に“直接”関係するものではない。
実際の金融市場の動きをよく考えてみれば、ベースにあるのは金融商品の需給なのである。その動きは、いつも双方向あるが、“水圧”の様なもので、売りと買いどちらの動きが強いか、ということになる。
ここでは、大学時代から30年間で考えてきた外貨、株式などの金融市場の予想、及び実際のディーリング(投資)に役立つ分析手法と考え方の要点を説明しよう。これは筆者が、宿輪ゼミや慶應義塾大学経済学部の国際金融論の講義などで、実際に教えてきた内容である。
「金融市場のファンダメンタルズ」とは
それでは具体的に見てみよう。
(1) 実需(影響:弱い)
この部分は貿易収支・経常収支からなる。特に、貿易収支は古典的な金融市場分析や為替予想ではメインとなる方法であった。いわゆる「貿易黒字は 通貨高になる」というものである。そして、その結果、貿易収支が均衡する。さらに、その延長線上に「購買力平価説(Purchasing Power Parity: PPP)というものがある。為替レートはそれぞれの国の物価(ものの値段)が等しくなる基準で決まるというものである。以前は、事例として世界各国で販売されているマクドナルドのハンバーガーから逆算する「ビッグマック指数」が有名であった。最近では、スターバックスの「トールラテ指数」が有名である。