1996年に単身中国に渡り、上海中医薬大学で学び、現在上海で中医(中国伝統医学医師)として活躍している1人の日本人医師がいる。藤田康介さんだ。藤田さんに中国人の病気事情や医療についての考え方、昨今の日本への「爆医療ツアー」などについて、お話をうかがった。(聞き手・構成/ジャーナリスト 中島 恵)
――上海に住んで20年になるそうですが、日本人が中国で中医になるとは非常に珍しい経歴ですね。
1974年、大阪府出身。上海中医薬大学大学院博士課程修了。上海・東和クリニック(古北・浦東)中医科医師。上海甘霖健康管理諮訊有限公司董事長、医学博士。
私はごく普通の日本人として奈良県で育ったのですが、県立奈良高校在学中に祖父が肺がんを患い、そのときに出合った冬虫夏草に興味を持ち、中国の中医薬を学んでみたいと思うようになりました。それで一念発起して上海に渡り、まず中国語を勉強したあとに上海中医薬大学に入学、大学院まで修了しました。中医師になって今年で11年目になります。
現在は、上海東和クリニック中医科の日本人医師として働いています。また、上海甘霖健康管理諮訊有限公司という私設相談所も開設し、大阪には毎月、東京には2ヵ月に一度、講演活動や中医健康相談などに出向いています。
――ご専門は。
大学院では中医内科学を専攻しました。しかし、中医学の日常診察は全身を診るため、今は中医内科、中医皮膚科、中医小児科、中医婦人科、鍼灸科などを担当しています。一般的な風邪や胃腸炎のような内科疾患のほかに、メタボリックシンドローム対策など生活習慣に関わるもの、アトピー性皮膚炎や喘息、鼻炎などアレルギーに関わる疾患、偏頭痛や月経痛・腰痛など痛みに関わる疾患、さらに不妊症の相談や、悪性腫瘍まで西洋医学では治療が難しい症状の治療なども行っています。
日本人の医者というと
真面目で良いイメージが多い
――患者さんはどういう方々なのでしょうか。
90%が上海在住の日本人で、10%が中国人、さらに上海在住の欧米人なども来られます。最近は日本からわざわざ治療に来られる方も少なくないです。中国転勤になり、環境が変わって生活に乱れが出て体調を崩した方などが多いですね。偏頭痛や顔面麻痺、難聴、皮膚トラブルなど不定愁訴の症状が出る場合もあります。そこまで行かなくても、ストレスで身体がだるい、やる気が出ないなどの症状を訴える方もいます。中国人の場合は、上海の西洋医学の病院で診察してもらったけれど改善しないといって、来院する方もいます。
「この病院に日本人の医者がいるらしい」と聞き、好奇心で来る方もいます。日本人の医者というと、真面目で非常に良いイメージを持ってくださっているようですね。また、中医学は四診と呼ばれる望診、聞診、問診、切診を重視するため、どうしても時間がかかります。そこで、予約制でできるだけ時間をかけて診察するように心がけています。治療は主に中医薬(いわゆる漢方薬)と、場合によっては鍼灸も活用した鍼薬結合治療も行っています。