蔡英文主席が台湾総統に就任
中台関係は発展するのか?
2016年5月20日、民進党の蔡英文主席(以下敬称略)が第十四代中華民国(以下“台湾”)総統に就任した。
「この国の民主メカニズムに感謝する。平和的な選挙プロセスを通じて、3回目の政権交代を実現することができた。あらゆる不確定要素を克服し、4ヵ月に渡る政権移譲期を順調に過ごし、政権の平和的移行を完成した」
蔡英文は就任演説の冒頭でこのように語り、かつ「問題解決」こそが国民が新しい総統・政府に期待していることであると主張した。
本稿では、蔡英文が正式に台湾の総統に就任したことを受けて、それが今後の中台関係にどのような影響を与え得るのかを検証していきたい。
台湾総統選挙直後に私が書いた連載第68回「蔡英文陣営が大勝した台湾選挙は“中国民主化”に何をもたらすか?」(2016年1月19日)を含め、最近本連載ではしばしば台湾問題を扱ってきた。その意図するところとしては、中国共産党にとっての“核心的利益”である台湾において、民進党という中国と比較的距離を置き(国民党と比べて)台湾独自のアイデンティティ・地域戦略・国益などを掲げる傾向の強い政党が再び政権を奪回し、しかも議会でも過半数以上を占めるという“完全執政”を実現したという事実は、中国共産党にとって、対台湾政策だけでなく、その内政発展プロセスにも切実な影響を与える変数と言える。
中国民主化プロセスを観察対象とする本連載としては、そのような変数には敏感に反応し、その背景や構造を注意深く追っていくべきだと考える。具体的過程や方式はさておき、中国民主化を促し得るファクターを見逃すわけにはいかないというのが私の立場である。
蔡英文の就任演説は若者が直面する難題、国内の経済改革問題、社会のセーフティネット、イノベーション、政府改革、両岸関係、対外戦略、グローバル問題への対応、自由民主主義の在り方と堅持など、あらゆるテーマにおける新政権の主張と立場を謳った。以下、本稿の目的と直接的に絡んでくると思われる3つのテーマを抽出し、そのインプリケーションを整理していきたい。
1つ目に、演説を通じて蔡英文が「民主」という言葉に24回言及し、台湾が民主主義国家であり、それを守り、育てていくことの重要性と切迫性を主張したことである。
華人社会として初めて自由民主主義を価値観・制度の両側面で実現した台湾が、それを必死で守り育てようとする姿勢は(外的要因を度外視しても)、本質的なことである。私自身、これまで台湾を訪問したり、台湾の人々と交流したりする過程において、彼ら・彼女らが自由民主主義に基づいた生活を愛し、尊重していること、少なくとも私が付き合ってきた人々の中で独裁政治時代に戻りたいと心底願うシティズンは、誰もいないことを感じてきた。