日産自動車が燃費不正問題で窮地に陥っている三菱自動車への資本参加を表明してから2週間。両社は正式に資本業務提携の契約を結び、6月末に発足する新たな経営体制の布陣を固めた。その背景には、買収者である日産の狙いが透けて見える。(「週刊ダイヤモンド」編集部 浅島亮子)

新体制では、益子修・三菱自会長(左から1人目)が留任し、山下光彦・日産元副社長(同2人目)ら3人が「副社長」として送り込まれた
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「日産側の人選は、最初から山下(光彦・日産自動車上級技術顧問)さんで決まっていた」(三菱自動車関係者)

 5月25日、日産と三菱自は資本業務提携を前提とした契約を締結し、6月末に発足する新経営体制を固めた。

 益子修会長(67歳)は社長職を兼務して留任し、副社長に山下氏(開発担当。63歳)、三菱商事出身の白地浩三・三菱自常務執行役員(海外担当。62歳)、池谷光司・三菱東京UFJ銀行(BTMU)専務執行役員(財務・経理担当。58歳)の3人が就いた。同時に、燃費不正問題の責任を取り、相川哲郎社長が退任するなど、取締役会メンバーは大幅に入れ替わる。

 今回の幹部人事は、二つのことを示唆している。

 一つ目は、日産が出資を完了するまでの暫定政権では、三菱自の経営グリップを握るのは益子会長であり、日産は三菱自を“遠隔統治”する体制になっていることだ。

 山下氏は、日産では一貫して開発畑を歩み、副社長まで上り詰めた人物。電気自動車の開発や、メーカーの枠組みを超えた規格標準化を推進するなど、実績は十分ではある。だが、日産副社長の職を解かれて2年。今春には藍綬褒章を受章するなど、「いわば、過去の人」(日産幹部)。開発現場の第一線を仕切る、現役のエース級を送ったわけではない。

 この背景には、日産側の意図がありそうだ。日産は、山下「副社長」を落下傘として据えながらも、燃費不正問題には直接的には関与しない。あくまでも三菱自と三菱グループ(三菱商事、BTMU、三菱重工業)に不祥事の片を付けさせる算段なのだ。燃費不正による損失規模が見えない中、日産が三菱グループをリスクヘッジの緩衝剤として利用している。

 二つ目は、これまで足並みをそろえて三菱自を支援してきた三菱グループの対応が割れて、三菱重工が一歩引いたことだ。

 三菱商事とBTMUが「副社長ポスト」に派遣するのに対して、三菱重工は幹部派遣を見送った。常勤の役員以上で残る三菱重工出身者は、野田浩専務執行役員ただ一人となってしまう。

 三菱グループが持つ三菱自株式約34%のうち、三菱重工は20%を保有する筆頭株主。だが、「三菱重工が匿名組合を経由して保有している7.37%については、組合解消で手放す方向」(三菱グループ幹部)だ。人事だけではなく、資本においても、三菱重工はフェイドアウトしていく方向だ。