──大阪大学や東洋大学、国外ではハーバード大学でも教鞭を取られていますが、その中で、慶應にはどのような特徴を感じられましたか?

 慶應といっても私は卒業生でもなく、教えていたのもSFCなので全てを語れるわけではありません。ただ、後から慶應のソサエティに入り、客観的に観察して、これは面白い組織だなと思いました。

 創設者である福澤諭吉のイノベーションの精神がしっかりと受け継がれていたからです。福澤諭吉自身はさまざまな産業を創ったイノベーターでした。代表的なところで言えば、今国民の多くが加入している生命保険。実は、これを日本に最初に紹介したのは福澤諭吉です。

 イノベーションは、シュンペーターの定義によれば新結合です。つまり、何かと何かの組み合わせ。ワットの蒸気機関車なんかが、分かりやすいでしょう。あれは、蒸気と大砲の技術の組み合わせです。最近だと、デジタルと通信の組み合わせである、インターネットはまさにイノベーションですね。

 では、このイノベーションの精神がどうSFCで感じられたかというと、開設時に外部の教員を多く取り入れたところからです。

 私もその一人で、SFCの開設とともに総合政策学部の助教授として赴任しました。

 加藤寛教授(当時)や高橋潤二郎教授(当時)といった名物教授がSFCの開設に尽力され、私も一緒に仕事をさせていただきました。異質なもの同士の融合で新たなものが生まれる。新結合を実践したわけですね。

文系もプログラミングを学ぶSFC

──SFCではどのような教育がなされていたのですか。

 一番ユニークなのは、1年次からゼミがあることでしょう。4年生と同じゼミに入って、一緒に学びます。これが何を意味するかというと、大学入学時に「将来、何をしたいか。どう社会に貢献したいか」を考えさせられるということ。将来像なくして、ゼミの選択はできません。

 また、SFCは、学生が自由にカリキュラムを組めるようになっているのも特徴です。例えば、経済原論だとかマクロ経済学、ミクロ経済学といった科目が必修ではない。なので、適当に授業を選べず、学生は真剣に将来を考え必要に迫られる構造になっているのです。

 必修科目もありますが、それは言語くらい。この言語がまた面白いのですが、SFCでは、自然言語と人工言語に分けて学びます。

 自然言語はいわゆる、英語や中国語といった言葉ですね。一方、人工言語はプログラミングです。SFCには総合政策学部と環境情報学部がありますが、どちらの学生もプログラミングを学びます。

──文系もプログラミングを学ぶのですね。

 そもそも、文系、理系という概念自体をSFCではあまり感じません。SFCでは総合政策学部と環境情報学部を「双子の学部」と呼び、開設当時から学生に「パソコンを文房具に」と遊び半分で言い聞かせてきました。

 私のゼミにも、環境情報学部の学生がいましたよ。最近ヒットした『「学力」の経済学』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)という本を書いた中室牧子さんも環境情報学部で、私のゼミ生でした。