「救世主」として
人を救おうとしてはいけない

小林 先日、アドラー心理学を用いたコーチングを学ぶセミナーを受講しました。仕事の関係で中途半端になってしまったのですが、そのセミナーを申し込んだときにちょうど『幸せになる勇気』を読んでいて、哲学者が青年に対して「他者を救うことによって、自らが救われようとしている」と言う箇所にぶち当たって。うわ、これっていまの私のことだ!と恥ずかしさでいっぱいになりました。

古賀 「メサイヤ(救世主)・コンプレックス」について書かれた箇所ですね。他者を救うことで自尊心を保つという行為を、アドラーは否定します。いいことをして人に貢献しているつもりで、実は自分が救われたいだけだったという……。無自覚で同じことをしている人は結構多いでしょう。

小林 あの考え方を知って、コーチングをこれ以上学ぶのはやめようと思いました。

岸見 それは賢明な選択です。教育やカウンセリングの仕事に、人から感謝される類の気持ち良さを期待してはいけません。事実、相手は症状が良くなったら、感謝の念どころか助けを受けたことすら忘れます。先日、数年前にカウンセリングをした患者さんと再会したときに、その人が当時のことを振り返って「あのころは本当にきつかった。でも自分で問題解決ができてよかった」と言っていました。「夜中に何度も電話してきて、死にたいと言っていたのはあなたではなかったのか」と思いましたが(笑)、それでいいのです。当時のことを忘れてしまうくらい良くなったのを知って、私はうれしい。逆に、「先生のおかげです」などと言われても戸惑うだけです。相手からの感謝を期待する人は、カウンセラーやコーチ、教師といった人を助ける仕事に就いてはいけません。

小林 やっぱり私にコーチの仕事は無理でした。助けた相手から同じことを言われたら、「なんで私がやってあげたことを忘れるの?」って責めちゃいそう(笑)。

岸見 メサイヤとしてではなく、小林さんが「わたしたちの幸せ」を実現して、その影響が自然と周囲に伝わって、みんなを幸せにすればいいんです。

小林 そんなに難しいことできません!

岸見 いえいえ、いまあなたがテレビでやっていることは、まさにそういうことですよ。小林さんが元気に楽しそうに仕事をしているのを番組で見ると、私は幸せになります。

古賀 僕だって、もともと岸見先生がお書きになったアドラーの本を読んで感動して、なんとかこの考えを多くの人に伝えたいと思って、この2冊ができたんです。そしてそれを小林さんが読んで、いろんなところでお話ししてくれて、さらに読者層が広がっている。僕が本作りを通してやりたいと思ったのと同じことを、すでに小林さんは電波を通してやってくださっているじゃないですか。

小林 そう言っていただけて、本当にいま、自信がわいてきました。アドラーの言葉を読むたびに、自分の人生に対して感じてきた胸のつかえがパラパラと取れていく感じがするんです。本を読んで考えたことを、私はこうやってお2人とお話をする機会をいただいて理解を深めて、行動に移していける。その結果、得たことをテレビの仕事を通して多くの人に伝えて、誰かの人生が幸せになるとしたら、すばらしいことです。

岸見 小林さんが『嫌われる勇気』を読んだ後に、努力を重ねて変化してきたことは、私と古賀さんをはじめ多くの人が見ています。われわれにとっても、あんなに「自分が嫌いだ」と言っていた小林さんが「自分は自分」と言えるようになっていくのを見て、こういう風に人は変われるのだという勇気をいただいています。これからの小林さんには、さらに新たな変化が訪れることでしょう。「幸せになる勇気」だって、きっと持てるようになりますよ。

小林 まだ『幸せになる勇気』の教えを実践するまでの理解には達していなくて、この本を『嫌われる勇気』のように100回くらい読んでようやく、私は動き出せるのだと思います。私はアドラー2部作と共に人生のステップアップをして来ました。私にとって宝物とも、バイブルともいうべき本です。

岸見・古賀 ありがとうございます。

小林 こちらこそ、この2冊が世に出たことにとっても感謝しています。なんだかこれから、楽しい人生が待っている気がしてきました!

(終わり)