無意識の劣等感に気付くことが
成長への第一歩

小林 『幸せになる勇気』の中で、「われわれは子ども時代、ひとりの例外もなく劣等感を抱えて生きている」という言葉が出てきますよね。これを読んでから自分の劣等感は何だろう? と考えたら、唯一、妹に対してすごく劣等感を持っていると気付きました。

古賀史健(こが・ふみたけ)
株式会社バトンズ代表。ライター。1973年福岡生まれ。書籍のライティング(聞き書きスタイルの執筆)を専門とし、ビジネス書やノンフィクションの分野で数多くのベストセラーを手掛ける。2014年、「ビジネス書ライターという存在に光を当て、その地位を大きく向上させた」として、ビジネス書大賞2014・審査員特別賞受賞。前作『嫌われる勇気』刊行後、アドラー心理学の理論と実践の間で思い悩み、ふたたび京都の岸見一郎氏を訪ねる。数十時間にわたる議論を重ねた後、「勇気の二部作」完結編としての『幸せになる勇気』をまとめ上げた。単著に『20歳の自分に受けさせたい文章講義』

古賀 それは幼いころからですか?

小林 そうかもしれません。アドラーの言葉がきっかけで考え始めて、はっきりと自覚したのは一昨日ですけど(笑)。

古賀 ごく最近ですね(笑)。

小林 それで、妹に「私、あなたに劣等感を持ってる!」と正直に話したんです。妹は私よりかわいらしくて、ずっと母親の愛情を一身に受けている。それに比べて私は母からも妹からもそんなに愛されていないと言ったら、「お姉ちゃんって本当にかわいそう」って言われました(笑)。そしてその瞬間に、なぜかすごく満足したんです。

岸見 第一子である長男・長女は、最初は親の愛を独占しますが、やがて第二子の誕生によってその座を奪われます。そこで王座を奪い返すために、最初はすごくいい子になろうとします。第二子の面倒を見るように言われたら、その期待に応えようとする。しかし、うまく面倒が見られなくて怒られたりすると、一転して親を困らせて注意を引こうとする。大体そのどちらかの傾向がありますね。

古賀 僕は次男なので、第一子の「王座を奪われる」という感覚がよくわかりません。小林さんはどうですか。

小林 私の場合は、母を助けて妹の面倒を見て、近所の人からも「いいお姉ちゃんだね」って言われていました。役に立っていい子になって、ほめられる。そうやって他者から承認を得ることに成功したので、家族以外の人間関係でもそれを繰り返していました。でも、実際は3歳のときに母を助けられなかった自分のことがずっと記憶にあって(前編参照)、本当の自分は役立たずで、かわいそうな人間だと心の底で思っていたんでしょう。いくらほめられてちやほやされても、そんなのはウソだし表面的なことに過ぎないという、空しさがありました。だからこそ、妹に「お姉ちゃんって、かわいそう」と言われたとき、自分を受け入れてもらった気がしてうれしかったのだと思います。

岸見 ああ、あなたはずっとありのままの自分を受け入れてほしかったのですね。

小林 ありのままの自分……。ほめてもらおうと頑張っている自分ではなく、本来の自分を認めてほしかった。先生、まさにそうです!

岸見 その気づきは大きな一歩ですね。これからはきっと、妹さんや他者から言われなくても、「自分を認めて、受け入れる」ことが自然にできるようになるはずです。