皆さんと。左が文中に登場する技術顧問の山崎氏。取材中も会社までお客さんが油を買いに訪れていた。「結構、直接買いに来られるお客様が多いんですよ」とのこと

──スーパーで売られている油が安い理由はなんでしょうか。

「一つは容器の問題もあると思います。うちは缶だけど、大手メーカーはプラ容器でしょう。プラ容器は軽いし、コストも下げられるけれどプラは光や酸素を透過してしまう。JAS法でも缶の賞味期限は2年でプラ容器は1年になっているでしょう。その他に油の歩留まりも大きいですね。溶剤抽出を行うと効率よく生産できます。思うんですが安価すぎる油はやっぱりおかしいですよね」

──大手メーカーの製品と比べてここの油は使っていてもヘタれない気がします。どうしてこのような違いが出るのでしょうか?

「そうですか。でも、それは説明するのはなかなか難しいですね。というのは油は酸度や脂肪酸の組成といった成分は分析にかけられるけれども数字上で差が出るものではないからです。でも、さきほど森田が言ってましたけど、ここのサラダ油ならもたれない、大丈夫というお客さんがいますからどこかに理由があるはずです。個人的な推測ですがこれに原因があると思う」

 山崎氏はノルマルヘキサンの瓶を手にとった。

「抽出法の場合はノルマルヘキサンと原材料を混ぜて何度も加熱しますから、やはりそれだけ熱にさらされます。精製すれば数字上は良くなるんですが、その影響はどこかにあるのかもしれない。油の敵はとにかく熱と酸素です。圧搾方式だとこの影響を最小限に抑えることができる。そういうことじゃないかな。あとの違いは……大手さんは宣伝がうまいよね(笑)。例えばこれなんかコレステロール0って書いてあるけど、コレステロールは動物性だから、植物性油脂なら0が当たり前じゃないですか」

「でも、問い合わせが多いので、うちでも0って載せましたよ」

 社長の森田氏は苦笑する。

「ほんとは入れる必要はないんです。油に対する理解が足りないよね。コレステロールの心配をするよりも普段の食事の栄養バランスのことを気にしたほうがいい。これなんか油に詳しい大学の先生が書いた記事なんだけど」

 そう言って山崎氏はある新聞記事を見せてくれた。栄養大学の先生が油の上手な摂取方法や利用方法を解説した記事である。

「この記事には色々な油が挙げられていますが、ナタネ油はどこにも載ってない(笑)。本当はナタネ油はオリーブオイルにも負けない油なんです。この脂肪酸組成比較表を見てください」

 オリーブオイル オレイン酸75%、リノール酸10%、リノレン酸1%
 ナタネ油    オレイン酸60%、リノール酸20%、リノレン酸10%
 エゴマ油    オレイン酸20%、リノール酸10%、リノレン酸60%

「3つの脂肪酸をバランスよく摂取することが大事って言われているでしょう。オリーブオイルは悪玉コレステロールを下げる働きがあるオレイン酸が多く含まれているのでいい油と言われていますが、中性脂肪を下げ、血液をさらさらにする働きを持つEPAやDHAと同系統のリノレン酸が少ない。けれどナタネ油を見てください。バランスが良くて、実に美しい。でもね、ナタネ油って当たり前すぎて地味なんですよね」

──日本はカロリーベースの自給率が低いと言われますが、その原因は畜産と油脂です。国産のナタネ油が広がれば自給率の向上にも寄与できると思いますが。

「国産は増えてきたとはいえ、まだ少ないですからね」

 森田氏は課題を語る。

「でも、栽培面積を増やしたいという声をよく聞きますし、実際に増えつつあります。でも、そうそう需要が増えるわけでもありませんし、不作の時もあります。そうなると足りないという事態が起きてしまう。これまで二十数年取り組んできたなかで実際に何回かそういう事態に直面しています」

 国産のなたね油を安定して入手するにはまだいくつかの課題がある。国産ナタネ油600gの1缶を作るのに畳6畳分必要となる。国産のナタネ油を使うことで、地方の美しい景観を維持することにも繋がる。ナタネ油は地味だが大きな可能性を秘めているのだ。

──今後の課題などはありますか?

「やはり原料の確保ですね。これだけ世界中で遺伝子組み換え作物が増えていくと難しくなってくるかもしれません。あとはそれに比べれば小さな問題かもしれませんが、高齢化などもあって家庭で天ぷらを揚げる人が少なくなっていることでしょうか」

──家庭での需要が減るなかスーパーなどの惣菜は伸びています。しかし、スーパーやデパ地下などで使っている油はひどいものも多いですよ。

「そうですか。うちは油屋ですから家で使う油は贅沢しています。しょっちゅうとっかえていますね。たまにギフトなんかで大手メーカーの油をもらうじゃないですか。そうしたら炒め物にしても口のなかに残っちゃって。そういう時〈うちの油、いいんじゃないか〉って改めて思いましたね(笑)」

 是非、スーパーマーケットなどのお惣菜を製造している場所ではいい油を使ってもらいたい、と思う。

 米澤製油の工場を見学すると食べ物は土から生まれ、手で形にしていくということがよくわかる。食べ物を取材していると食べ物に思えなくなる瞬間がある。例えば大規模な工場で生産されていたり、高度な科学技術によって生み出されたものだ。石油製品を使って抽出され、化学的な処理をされた植物油は工業製品のようで食べ物には思えない。安心、安全以上にそもそもそうした食べ物はおいしく感じられない。食べ物とはなにか、ということが今、改めて問われている。