一方、速度レンジは上がっている。最高速度が81km/hから97km/hに引き上げられているのをはじめ、全般的にJC08モードより速い。アイドリング時間が短くなることと相俟って、平均車速は現行の24.4km/hから36.4km/hと、実に1.5倍増である。

 ところが、速度域が上がることとアイドリング時間が短くなることは、実は燃費にとってはむしろ有利に働く。加速度もしかりだ。WLTPで数字が悪化する要因となるのは、冷間始動の比率が上がることと試験車の重量見積もりが大きくなることで相殺されるというだけのことである。

 国交省の検証結果を見ると、ハイブリッドカー、アイドリングストップ車、また軽自動車のうち燃費志向モデルについては、総じて燃費悪化の幅が大きい傾向にある。その一方、非アイドリングストップ車については、燃費値がむしろ上がるものも見受けられる。確かに見かけ上は、今より公平な値に近づくと言える。

 だが、その数値は依然として、エコドライブの上級者が燃費向上を第一に考えて運転した時に、初めて得られるレベルのものだ。クルマの顧客が知りたい燃費情報は、そんなものではあるまい。いの一番に知りたいのは、平均的な運転スキルの人が普通に走ったとき、都市部、郊外、高速道路など、いろいろなシーンでどのくらいの燃費であるかということだろう。WLTPはそういった顧客ニーズに応えるものとは到底言えない。

導入をアリバイにするのなら
国交省は監督官庁として甘い

 日系自動車メーカーのエンジニアのひとりは言う。

「一時的に燃費値が落ちたとしても、自動車メーカーはあっという間にWLTPにおける燃費向上のためのノウハウを蓄積し、再び実態からかけ離れたものになるでしょう。現行のJC08モードが施行されたときにも同じ現象はありました。(旧審査法の)10・15モードより燃費値は落ちましたが、その後、目覚ましく燃費値が良くなりましたよね。もちろんエンジンの熱効率向上や走行抵抗の低減など技術進化によるところも大きいのですが、それだけではありません。どうやったらJC08モード下でいい燃費値が出せるかというノウハウが予想以上に素早く蓄積されたことも、燃費値が上がった一大要因です。WLTPも同じようなことになると思いますよ」

 JC08モードにせよWLTPにせよ、今日のクルマはどれもそれらの甘々な走行パターンのはるか上を行く性能を持っている。仮にあるクルマを全開加速させたら、その排出ガスは社会的に許容されるものなのか、といったことは、検証すらされないのだ。欧州では今、固定モード走行ではなくランダム走行で公平に燃費を図るにはどうしたらいいかといった議論が盛んに行われている。

 WLTPは始まる前からすでに古いのだ。それを導入することで監督官庁としての責任を全うしたというアリバイにできると考えているとしたら、それは甘いと言わざるをえないだろう。