兵士に合わせて変化した本の形態

『戦地の図書館』
モリー・グプティル・マニング著
東京創元社 316p 2500円(税別)

 個人的におもしろかったのは本や雑誌を送る際に、製作にかかる費用上の問題や、紙の供給が減らされていること、持ち歩くのに軽いほうが便利という様々な状況が重なって「書籍/雑誌が小型化されていく過程」だ。たとえば〈ポスト・ヤーンズ〉という兵士へと無償供給されていった最も小型な雑誌は横7.6センチ、縦11.4センチ(一瞬読み間違えたかな? と驚いて何度も見たけどこう書いてある。)で記事や小説、漫画が掲載されていたのだという。

 その流れは書籍にも及び、第二次世界大戦前は少なかったペーパーバック出版が一気に盛り上がっていくことになる。『一九三九年にアメリカで販売されたペーパーバックの数は、二十万冊にも満たなかったが、一九四三年には四百万冊を超えている。』というように。これは戦地に送るためというよりかは戦時の紙の供給制限に影響を受けた側面が大きいようだが、この時を境として急激に、今では日常風景となったペーパーバックが増えていくのはおもしろい光景である。

兵隊文庫と呼ばれる独自の形態 Photo:東京創元社

 とはいえ1943年にはまだ「前線にいる兵士に適した」本の形態はまだ作り出されていなかった。できるだけ軽く、読みやすく、趣味にあったものを──そこであらたに考案されたのが兵隊文庫と呼ばれるもので、これはサイズからして標準的な軍服のポケットのサイズにあわせちょうど入る大きさに調整され(たとえば、大きい方は横16.5センチ、縦11.4センチ。小さい方は横14センチ、縦8.6センチ)、作品選定も兵士の興味にあったものが考えられている。たとえばこれをきっかけとして再評価が進んだ『グレート・ギャツビー』もそのうちの一冊だ。単なる寄付された本を送るだけでなく、兵士に合わせて本の形態さえも次々と変わっていったのである。

 とまあ、ざっくりと本書の内容を紹介してみたが、兵隊文庫が及ぼした影響はこれでもほんの一部だ。特に戦場でいかにして兵士がこの兵隊文庫に助けられてきたのかという事例は興味深いものばかり。たとえばノルマンディー上陸作戦(オマハ・ビーチ)で重傷をおった隊員たちが、衛生兵が来るのを待つ間に、崖のすそへと体をもたせかけて本を読んでいた光景の話など、過酷な状況にあって本が人間にどれほどの機能を果たすのかが、さまざまな側面から把握できる。

二度と戻らない風景

 本書を読み終えた時に思ったのは「でも、こういう運動はもう行われないんだろうなあ」という郷愁のようなものだった。今はネットもあるし、電子書籍もある。わざわざ重い本を集め送る必要もなければ、新しく本の形態を作り上げる必要もない。それはもちろんいいことではあるのだが──、「過ぎ去って二度と戻ってくることのない風景」の美しさがここにはあるように思う。

 いかにして戦地で本が人を癒してきたのか、その後の出版文化に兵隊文庫が与えた影響、思想戦としての側面など、これまで光の当たらなかった部分へと目を向けさせてくれる良書である。