新しいテーマを切り拓き、新奇な知識や視点を与えてくれるベストセラー作品。自分にとって新しい言葉や思考法を与えてくれるリベラルアーツ本。直接仕事につながらないように思える本はどのように読むのが効果的か? 新刊『戦略読書』から一部を抜粋して紹介する連載第6回は、「非ビジネス新奇」ジャンルの読み方について。
セグメント4「非ビジネス新奇」
ヒット本、リベラルアーツ本、斜め読みのススメ
これまで、「読書ポートフォリオ・マトリクス(RPM)」(詳しくは第2回参照)の「ビジネス基礎」「ビジネス応用」「非ビジネス基礎」の読み方を紹介してきましたが、最後は右上のセグメント4「非ビジネス新奇」の効果的な読み方について解説します。
「新奇」セグメントとは、「ヒット本」か「リベラルアーツ」です。「ヒット本」でも、特に後追いではない新しいテーマやジャンルを切り拓いたヒット作は、世の中にとって新奇な知識や視点を与えてくれます。今まで学んだことのない「リベラルアーツ」は、自分にとって新しい言葉や思考法を与えてくれます。
それらが「新奇」本を読む目的です。では、その目的を達するためには、どんな読み方がいいのでしょうか。
どちらも、粗読みはムリです。定義により「基礎」がないので、決め打ちできる問題意識やキーワードを持っていません。なので、基本は斜め読みです。とりあえずの通読を目指しましょう。そして何かが心に刺さったら、そこの部分から熟読を試みます。
海堂尊『チーム・バチスタの栄光』で医療ミステリーに触れた私は、とりあえずは『ナイチンゲールの沈黙』『ジェネラル・ルージュの凱旋』『ブラックペアン1988』などと読み進め、西丸與一『続 法医学教室の午後』まで辿りつきました。医師・病院・医学部・患者・警察・行政……。
藤原和博・宮台真司『人生の教科書 [よのなかのルール]』で、この世のルールに触れたなら、宮台真司『私たちはどこから来て、どこへ行くのか』に挑戦しても良いかもしれません。稀代の思想家が何を考え、この難しき現代にどういう処方箋を描いているのかがわかります。
でも何も刺さらなかったら? 本棚に記念として飾っておくか、売りに出すかしましょう。そしてその悲しみを乗り越えて、次に進むのです。運が悪かったな、と。
雑談ネタ本として読んだ『失敗の本質』から学んだこと──戦争とは
1984年に『失敗の本質』が出版されました。旧日本軍の第二次世界大戦における「失敗」の研究書です。私が読んだのは文庫化された後、91年頃で人より早かったわけでもなく、しかも動機は「クライアント役員との雑談用」でした。
当時、ビジネス誌にもよく「戦記」や「戦争論」「軍人論」が載っていました。年配のビジネスマンに、そういうネタが受けたからでしょう。でも私は、何より根性論が嫌いなので、ちょっと敬遠していました。「昔はよかった」みたいな昔話にもまったく興味がなかったので。
ただ、非常に評判が高かったこともあり『失敗の本質』くらいは「教養として」読んでみようと手を出しました。読み始めてすぐに、その客観的な研究のスタイルに惹きつけられました。
戦争は冷静に議論しにくいテーマです。「好き嫌い」「怖い」「愛国心」といった感情が先に立ってしまうからです。感情から入ってしまうと、その先の議論ができなくなります。 原発問題も同じかもしれません。「絶対安全」という言葉が、さらなる安全対策を鈍らせましたし、「絶対反対」と言った瞬間に、「どのように脱原発を進めるか」という話もできなくなってしまいます。
『失敗の本質』では戦争を、「国家間の紛争解決手段のひとつ」として捉え、冷徹な研究者の目で観察し評価しています。「こういう戦いの捉え方があるのか」と感銘を受けました。 個人的に好きなのは一章の事例研究ですが、二章で語られる失敗の本質、三章の教訓も含め、ビジネスの現場でも活かせると感じました。