ホンハイの札束に飛び付いた三菱東京UFJとみずほの両行。自らの債権保全を最優先するかのような立ち居振る舞いに、企業金融の担い手としてのあるべき姿が問われている。
4月27日。経済産業省本館の17階で開かれた新産業構造部会。
昨年9月から、日本の産業競争力強化に向けた施策について、7回にわたって議論を重ね、中間の論点整理をする中で、ある発言に会場が一瞬静まり返った。
「銀行のコンサルティング機能の強化こそ必要であって、官民ファンドの役割強化はすでに時代に合わないのではないか」
そう切り出したのは、部会の委員を務めるみずほフィナンシャルグループの佐藤康博社長だ。
部会では、新たな産業・プラットホームの創出と、それに伴う積極的なリスクマネーの供給に向けて、産業革新機構を含めた官民ファンドの機能強化の検討を打ち出していたが、それに異論を唱えてみせたのだ。
通常であれば、賛否を戦わせる中での健全な議論の一環としか見えない。しかし、ホンハイによるシャープの買収劇をめぐって、交渉過程でのみずほの立ち居振る舞いを客観的に見てきた経産省の事務局や、他の委員にとっては、発言の裏側に自分たちを正当化しようとする意識が透けて見え、思わず鼻白んだに違いない。
ここで言う正当化とは何か。それは、融資先企業であるシャープのスポンサーとして、みずほが革新機構ではなく、ホンハイを選択したということだ。
選択したというより、むしろ無為無策のシャープ経営陣がそうせざるを得ないよう、徹底した根回しと振り付けをしたという方が、実態に近い。
買収交渉に携わったさまざまな関係者の証言を基に、銀行の目線から、交渉の過程を振り返ってみよう。
産業革新機構とホンハイの再建案
優先株処遇で明暗
シャープの真の再生と液晶産業の競争力強化には、ジャパンディスプレイとの統合をはじめとした業界再編が不可欠だ──。最初に経産省にそう水を向け、きっかけをつくったのは、三菱東京UFJ銀行だった。
シャープの財務を握っていた大西徹夫元副社長など、一部役員と優先株の引き受けによる支援策で時に衝突しつつも、革新機構を通じた再編に向けて、昨春から地ならしを続けたのも三菱だった。