未来を予見する「弁証法」の法則
拙著、『知性を磨く』(光文社新書)では、21世紀には、「思想」「ビジョン」「志」「戦略」「戦術」「技術」「人間力」という7つのレベルの知性を垂直統合した人材が、「21世紀の変革リーダー」として活躍することを述べたが、この「7つの知性」を磨く場として「田坂塾」を開塾したところ、現在、3000名を超える経営者やマネジャー、リーダーが集まり、様々なテーマでの学びを深めている。
この連続講義「7つの知性を磨く田坂塾」では、この「田坂塾」での学びの一端を公開しながら、毎回、7つの分野から一つのテーマを取り上げ、講義を行っていく。
この第3回では、「思想」に焦点を当て、拙著、『使える弁証法』(東洋経済新報社)や『未来を予見する「5つの法則」』(光文社)において述べた、次のテーマを取り上げ、論じよう。
なぜ、ネット時代のビジネスパーソンは、ヘーゲルを学ぶべきなのか?
ヘーゲルとは、ドイツ観念論哲学の泰斗、ゲオルク・ヘーゲルのこと。『精神現象学』や『法哲学』などの著作を遺した哲学者である。
しかし、こう述べると、法学部出身の読者は、「ヘーゲルか、あの難解な哲学を読んでも、現実の役には立たない…」と思われるだろう。
その通り、読者が、ヘーゲルの著作を繙いても、同様の感想を抱くだけだろう。
しかし、ヘーゲルの哲学の根幹において語られている一つの法則を理解することは、決して難しくない。今回の講義で述べるのは、その法則である。実は、この一つの法則を理解するだけで、不思議なほど、世の中の変化の方向が見えるようになり、我々の社会の未来が見えるようになる。
では、その一つの法則とは何か?
弁証法(dialectic)である。
特に、弁証法の法則の中でも、「事物の螺旋的発展の法則」。この法則を学ぶだけで、未来が見えるようになる。
では、「事物の螺旋的発展の法則」とは、どのような法則か?
それは、「物事の変化や発展、進歩や進化は、あたかも螺旋階段を登るように起こる」という法則のこと。
分かりやすく述べよう。
いま、「螺旋階段」を登っていく人物を想像してみよう。この人物を横から見ていると、上に登っていく。すなわち、「進歩・発展」していくように見える。しかし、この人物を上から見ていると、螺旋階段の中心を一周回って、元の位置に戻ってくるように見える。すなわち、「復古・復活」が起こっているように見える。けれども、これは螺旋階段であるため、必ず、一段、高い位置に登っている。すなわち、「新たな価値」を獲得している。
これが、「事物の螺旋的発展の法則」である。言葉を換えれば、「世の中の変化や発展、進歩や進化においては、古く懐かしいものが、新たな価値を伴って復活してくる」という法則である。
こう述べると、読者から、「その法則の事例は、どこにあるのか?」との疑問の声が挙がるだろう。
実は、いま、世の中を見渡すと、この「螺旋的発展の法則」の事例が溢れている。特に、ネット革命の世界は、この法則の事例の宝庫と言ってよい。