中国出張中に、9月18日、遼寧省大連市で開催された「中国集団労働争議状況及び企業労働関係の影響シンポジウム」に関するニュースを読んだ。それによれば、今年、大連市で起きた7万人参加の大型ストライキは給与34.5%上昇の条件で妥結したという。

 このニュースが私の関心を引いた理由はいくつかある。

 まずは73社の従業員約7万人が参加したという規模の大きさと範囲の広さだ。第二に、ストライキが起きた企業のうち日系企業が48社で、その大半を占めていること。第三に、今年5月末から8月末にかけたもので期間も長かった。月給800元(約1万200円)上乗せを要求した労働者側と150元(約1910円)しか提示しなかった企業側とのかい離が大きかったことや外資系企業がストライキ問題に対して地元政府に協調姿勢を見せなかったことも印象に残った。

 筆者は今、中国にいる。安徽省合肥市、上海市、江蘇省昆山市、常熟市、宜興市、海南省海口市、三亜市を回っている。地元の政府関係者と接触したり、日系企業や地元の民族系企業を視察したりしている。

 今回はいままでとは違った空気を感じた。訪れた先では、日系企業からの投資を誘致したいという地元の熱意は明らかに減退していた。むしろ中国系企業へのラブコールのほうが上回っていた。

 たとえば、合肥市では「日系企業は労働集約型企業が多い」「内陸部だから人件費が安いとは限らない」という指摘を受けた。「長三角」こと長江デルタの中でもトップレベルの昆山と常熟ではIT、ハイテク、環境保護、省エネ関連の企業やベンチャー企業の誘致にしか関心を払わないと聞かされた。化学工場が市内にある宜興では、「少しでも環境を汚染する恐れのある企業なら、絶対誘致はしない」と言い切られた。

 一方、海南省といえば、多くの中国人は「天涯海角」という言葉を思い浮かべる。つまり地の果てという意味だ。しかし、その地の果てでも、人件費が高騰し、日系企業の幹部から「なかなか一般労働者を確保できない」というぼやきを聞かされた。

 海南省は観光を経済発展の柱にする路線をいっそうはっきりと打ち出してから、不動産価格が高騰し、それに釣られたかたちで物価もそうとう高騰している。どれほど高騰したかといえば、日系企業の中堅幹部の給与水準でもマイホームを確保できないほどだ。私が視察した某日系企業では、会社設立時点で入社し、今や総務課長に相当する立場にある若手の幹部が「マイホームを購入したいが、今の給与水準では絶望的だ」と語っていた。