レアアースショックは、起こるべくして起こった事態だった。中国政府は、以前から日本にある不満を抱いていた。領土問題は対日輸出禁止の直接のきっかけにすぎない。そして今回の措置は、日本にとってまだ危機の序章だ。年末、中国政府は来年上期の輸出枠を決定する。その内容こそが、日本企業の命運を左右する。
その輸入は、突如止まった。
9月22日、環マテリアルの松尾克之会長の元に中国共産党関係者から1通のメールが届いた。「釣魚島(尖閣諸島)で船長が逮捕されたゆえに、21日付でレアアース(希土類)の禁輸が決定された」と記されていたという。環マテリアルは専門商社で、レアアースを中国から輸入していた。一連のレアアースショックの始まりだった。
レアアースとは、合金などに混ぜることで素材の性能を高めることができるレアメタルの一種で、ネオジム、セリウムなど17元素の総称だ。用途は多岐にわたり、日本メーカーが強い国際競争力を誇るエコカーや省エネ家電にも不可欠で、日本経済の生命線といえた。
レアアースの生産は9割以上を中国が占めており、日本も輸入のほぼすべてを中国に依存していた。
22日、事態を把握するため、経産省は大手商社3社の幹部を招集した。日本向けレアアースの新規契約や船積み手続きは軒並み止まっていたという。一方、中国政府は、禁輸措置を全面否定している。
現実には、日本のメーカー側が3ヵ月から半年分程度の備蓄をしていたこともあって、目立った実害は出ていない。28日には、滞っていた日本向けレアアース関連の通関業務が再開されている。
商社幹部と面談した経産省の審議官は、「(禁輸は)尖閣諸島問題に端を発した報復措置にほかならない」との見方を示したという。日中間の政治的摩擦が禁輸措置の直接の引き金となったことは、誰もが疑うまい。