私は引っかからない。引っかかるわけがない。むしろ引っかかる人の気が知れない――。キャッチセールスや訪問販売などの怪しい商法に対し、こんな風に考えている人も多いのではないでしょうか。
しかし、怪しい商法の勧誘員を甘く見てはいけません。何度も売りつけに来るにしろ、契約を強引に迫るにしろ、一見していかにも「怪しい」勧誘員というのは、むしろ安全なのかもしれません。
もっと上手の勧誘員とは、どうやらこちらに「騙されている」という意識すら持たせず、そっと近くに忍び寄るようなのです。
この特集の取材をしていて私が思い出したのは、昔来た家庭用電気治療器の勧誘です。ターゲットは地域の中高年。腰や足など、「身体の痛いところが治るんだって!」と近所で噂になり、皆こぞって無料体験に行っていました。
当時まだ小学生だった私も、好奇心を押さえられず、その無料体験兼販売会場を覗いたのですが、そこは何と言えばよいのか、「異次元の世界」でした。異様な盛り上がりなのです。
勧誘員の質問に、中高年が「はーい!」と元気に手を挙げて回答する。毎日通っているので皆答えは解っており、「そんなの簡単だよ」と得意満面、とても楽しそう。
整骨院でも電気治療のようなものはあるそうなので、その治療器の効果のほどはわかりません。しかし価格は本当に高かった。1器40万円です。「いったい誰が買うんだ」と思いましたが、やはり中高年ともなると身体の痛いところの1つや2つ出てくるようで、それがまた深刻な悩みだったりする。
ライバル心も購入意欲に加担します。勧誘員に「○○さんはお買い上げくださいましたよ」と言われると、「我が家も買わないわけにはいかない」となる人もいるらしい。「うちも買っちゃったわ~」と得意げに話す主婦もいたといいます。
一方、「騙されたんじゃないか」と言う声は、結局最後まで聞かなかったと思います。そして知らないうちに、その電気治療器の勧誘員たちは姿を消していました。
こうなると、勧誘員の騙しの手口を知っておかないことには、悲劇の予防はできそうにありません。
今回の「怪しい商法 騙しの手口」特集では、最新のものから古典的なものまで、あらゆる騙しの手口を紹介。また、万が一騙されたときのための対策法も解説しています。
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(『週刊ダイヤモンド』編集部 新井美江子)