フリードマンは、「政府が自由に、お金の量を調整することができれば、効率的に需要を刺激し、目標とする物価水準を達成することができる」と考えた。

 この政策を進めるためには、政府が発行する国債を中央銀行に引き受けてもらうことが必要になる。いわゆる財政ファイナンスだ。中央銀行は引き受けた国債と交換で、紙幣を印刷して政府に渡す。

 この時、政府が発行した債務は、中央銀行が保有する。両者のバランスシートを合算すると両者合計の債務は増加しない。政府は制約なく、自由に財政支出を行うことができるため、財政規律は一挙に弛緩してしまう。一方、中央銀行である日銀の独立性は大きく損なわれる。

 既に、わが国はヘリコプターマネーに似た政策を導入したことがある。それは1999年の「地域振興券」だ。これは、政府が一種の商品券を国民に配り、消費を刺激しようとした取り組みだった。しかし、当時の振興券は期待したほどの効果は上がらなかった。これは、ヘリコプターマネーにも限界があることを示す証拠と言えるだろう。

 一方、足元で、ヘリコプターマネーこそがデフレ脱却の特効薬との見方もあるようだが、本当に、この政策が経済の長期的な安定に資するかは疑問の余地がある。

第1次世界大戦後のドイツにみる
財政ファイナンスが残した教訓

 政府が現金などを国民に給付した場合、一時的には現金を手にした人の気分が高まり、消費は増える可能性がある。しかし、通貨の発行量が制限なく増えていくと、次第に通貨の価値が低下しインフレリスクが高まる。

 財政ファイナンスを通して本格的なヘリコプターマネーが実施されると、最終的にはインフレ率が急上昇して、物価の高騰が起きるハイパーインフレに突入する恐れがある。それは経済を大きく混乱させるだけではなく、社会情勢も不安定化しかねない。

 歴史を振り返ると、第1次世界大戦の敗戦国ドイツは、1919年のヴェルサイユ条約によって巨額の賠償金を支払わなければならなくなった。この負担はドイツ財政を圧迫し、賠償は滞った。

 この事態を受けて、フランスはドイツ経済の心臓部と言われたルール地方を占領し、石炭などの資源を確保しようとした。それに対してドイツ政府は、労働者に対してストライキを呼びかけ賃金の支払いも保証した。

 この時、ドイツ政府は、当時の中央銀行であったライヒスバンク(ドイツ帝国銀行)に国債を引き受けさせて資金を調達し、賃金の支払いに充てた。こうして経済が低迷する中で中銀が紙幣を乱発した結果、ドイツのインフレ率は"天文学的"に上昇した。