税務署の調査能力なんてたかが知れている、という現地の風評があり、そもそも「まともに申告していない」ことが多い。東南アジアの輸入関税がやたらと高いのは、自国産業を保護するという目的だが、うがった見方をすると自国内での税徴収がまともに出来ないから水際でしっかり徴税しようというのも、主たる理由なのではないかと思ったりする。

 日本でも昔はこんな話があった。農協職員の指導により農家の過少申告が一斉に行われた事件である。そのときの農協職員のセリフが笑える。「Cさん、そんなに大きな(正しい)金額で申告したら、まわりの人たちが迷惑でしょ」。

「徴収」のための
租税条約とは?

 前述してきたのは、課税するための租税条約である。ところが、税収というのは「債権回収」してナンボのものである。債権回収すなわち「徴収」するための租税条約が、「税務行政執行共助条約」である。

 なぜ、徴収が問題になるのか?国税が課税しました。納税者が税金を払わなかったので滞納となりました。ならば、国税徴収法という強権で差押えすればいいじゃないか、となるわけだが、実は差押えできるのは「国内財産」だけである。オフショア財産はアンタッチャブルとなる。

 なので、日本を脱税して財産を海外にキャピタル・フライトさせれば、国税は徴収できないことになる。この条約に加盟すれば、制度の建前では締結国間で徴税事務を連携して行うことができる。日本が加盟したのは2011年と意外と遅かった。

 締結国(多数国間条約)は日本を除いて60ヵ国、うち日本と二国間条約を締結していない国は21ヵ国ある。アジアでは、日本の「手の届かない国」はまだまだある。タックヘイブンでは、香港、マカオがあげられる。「お国の事情」だろうか。ちなみにシンガポールは条約締結しているが、香港との立ち位置の違いがあるのか?

BEPS(Base Erosion and Profit Shifting)
プロジェクトとは?

 多国籍企業が国際的な税制の隙間や抜け穴を利用した租税回避によって、税負担を軽減している問題「税源浸食と利益移転」について、日本も参画している。二重課税の問題ではなく、「ループホール」(税法の抜け穴)を悪用した、いうならば「国際間二重非課税」の取引を防止しようというプロジェクトである。租税回避プロモーターはBEPSの動向を注意深く見ているに違いない。