歌舞伎町のホスト約30人がソムリエ試験に挑戦している。その挑戦をサイトで示し、応援したい友人らがクレジットカード決済でお金を寄付。目標額における達成状況を見て、自らを奮い立たせる。寄付金は、歌舞伎町など街の清掃を行うNPO団体に渡る。個人的な挑戦が友人を巻き込み、社会貢献につながっていく。
英国発の寄付サイト「ジャスト・ギビング・ジャパン」は10月14日、設立後およそ7カ月で、寄付総額が1200万円を超えた。2001年のサービス開始後から7億ポンド(約910億円)を集めた本家、英国の初年度実績を抜いたのだ。
支持を得たのには、主に三つの理由がある。
一つ目は、寄付に友人の輪を利用した仕組みだ。寄付といえば、NPO団体自らが街頭に立ち、不特定の人に向けて行う。だが、ジャストギビングでは、寄付を集めたい人(チャレンジャー)が手を挙げ、サイトを利用し、身近な友人に呼びかける。誰でも参加でき、日本ではチャレンジャー1人につき平均で友人ら7人が支援している。
二つ目は、娯楽性をとり入れたことだ。
チャレンジャーは「禁酒します」「富士山にのぼります」「マラソンを完走します」「試験に合格します」などと、好きな目標を掲げる。目標達成に努力する姿をみた友人が応援のために寄付し、コメントも寄せる。NPOの支援現場の悲惨さを見ることはなく、両者とも気楽に楽しんで参加できる。
三つ目は、カネの流れを透明化したことだ。
寄付金は、10%分をジャストギビングの運営費にあてる。残りは全額、チャレンジャーの指定したNPOに届く。対象のNPOは、財務情報を公開して審査を受けた団体に絞っており、不明瞭な団体にはいかない。
著名人や企業、マラソン大会などの協力も得て、日本でも急速に浸透している。
とはいえ、1200万人を巻き込んだ英国に追いつくには、まだ時間がかかりそうだ。
ジャスト・ギビング・ジャパンの佐藤大吾業務執行理事は「日本では、個人による寄付が浸透していない。英米では9割が個人によるものだが、日本は3割程度と低い。税制や決済手段など寄付制度のインフラを整えなければならない」と言う。
実は今、税制面でかつてない追風が吹こうとしている。年末にかけて進む税制改正議論によっては、寄付の仕組みが大きく変わる。
もともと、今年1月、税制調査会に「市民公益税制PT」が設置。4月には、草の根的な個人寄付が広がるようにと、寄付制度の充実化を求める中間報告がまとまった。それを基に、税制改正の要望が提出されている。
なかでも、所得税の税額控除方式(控除率50%)の導入が象徴的だ。簡単にいえば、10万円を寄付したら、およそ5万円分が戻ってくる制度が検討されている。これまで高所得者向けの制度はあったが、これで広く一般にまで対象が広がるといえる。加えて、要件の緩和により、NPOが税制優遇を受けやすいようになる可能性が高い。
日本NPO学会会長の山内直人大阪大学大学院教授は「実現すれば、個人寄付が大幅に増加することが期待される。ただし、寄付額のざっと半分が還付されることになるので、制度が悪用されないよう、対象NPOの選定は慎重かつ厳正に行う必要がある」と指摘する。
いずれにせよ、個人寄付の広がりはジャストギビングにとって大きなチャンスとなりそうだ。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 小島健志)