ある日、筆者の自宅にカタカナ社名の不動産業者の男性2人が訪ねてきた。筆者は都内の賃貸マンションに住んでいる。以下、話を簡単にするために、月額家賃を25万円、年間で300万円としよう。

 業者は以前の家主から筆者が住むマンションを購入した。もっぱら中古のマンションを買って、リフォームして販売するビジネスを手がけているらしい。

 先方は「次の契約更新は難しくなります」と話を切り出したが、「当面この家賃なら不満はないので、しばらく住んでいたい」と答えたら、部下らしき男性が「住宅購入のメリットについて」と題した「ご提案」資料を広げて説明し始めた。賃借人が居住物件を買うメリットをいくつか挙げている。

 第1に「家族の安心」だという。将来、家の稼ぎ手が稼げなくなった場合でも慣れた家に住み続けられるし、万一亡くなった場合には、団体信用生命保険がローンを返済するので家族が安心だという。

「ああ、これがあるから、世の奥様族は、旦那に家を買わせたがるのですね。買ってしまえば、旦那がどうなっても、家は自分のものになるし」と言うと、妻は隣でにっこり笑っていた。

 第2のメリットは、賃貸住宅に住んでいると、払ったおカネが「すべて他人のおカネに」なる損が避けられるということだった。資料でも、「賃貸住宅のロスを知ってください」「ローンが終わるとすべて自分の財産に」とある。

「ここは、家を買いたい人が最後にすがる点ですね。でも、私の場合は、家賃の支払いと家の価格の関係が問題なので、家賃を損だとは思っていません」と答えた。
上司は事態に気づいたようだったが、部下の男性はまだメリットを説明する(部下はツライ!)。