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米フォード・モーターが31年間続いたマツダの筆頭株主の座から降りる。11%にまで低下していたマツダの保有株式を数パーセントにまで低下させる方針を決めた。三井住友銀行などがそれを引き受け、筆頭株主になる見込みだ。年間販売台数120万台のマツダは大きな後ろ楯を失うことによって、次世代車開発競争で劣勢に立たされると見る向きもある。
ところが、10月20日、その懸念を吹き飛ばしそうな次世代技術をマツダが発表した。
日本では環境対応車といえば、ハイブリッド車や電気自動車の名前が真っ先に挙がる。
しかし、欧州ではエンジンの効率を徹底的に高める手法も評価されている。自動車の燃料の熱量の70%は冷却や排気などの際に散逸し、30%しか生かされない。このロスを徹底的に解消すれば燃費は劇的に向上する。
マツダが発表した「SKYACTIV」も、モーターや電池に頼ることなく、エンジンの効率を徹底的に上げ、いくつかの重要技術で世界最高の数値を達成している。2011年前半に発売される車種では30キロメートル/リットルとハイブリッド並みの燃費を達成するという。
今後のマツダをめぐる業界地図において、鍵を握ると目されるのが、このSKYACTIVの他メーカーへの外販だ。現在、自動車メーカーの提携の潮流は必ずしも強固な資本提携を結ぶものではない。グループ外に対しても、ハイブリッド技術を提供したり、エンジンを提供したりするという、緩やかに技術を融通し合う提携が進む。
山内孝会長(写真)が「当初は単独で展開するが、その先は他社提供も選択肢」と言えば、この技術の開発を担当した金井誠太取締役専務執行役員も「いくつかの自動車メーカーから問い合わせをもらっている。中国のメーカーへの提供ということも将来的にはありうる」と明かす。
一方で、この技術を搭載した自前のクルマの販売力は心もとない。
ユーザーに根づいた「環境といえばハイブリッド、電気自動車」というイメージを崩すのは容易ではない。加えて、現在の日本の補助金制度は次世代環境車の方式で決定されるため、従来の方式の延長線上にあるマツダの技術は対象にならない可能性もある。
マツダのある幹部は「何百万台も販売するグループの中にいさえすれば、いい技術を開発できるというのは間違い」と言う。また、別の開発関係者は「フォードの出資比率が下がれば自由度が上がる面もある」とも漏らす。フォードの株売却はむしろ追い風の面もあるのだ。
マツダは小さくとも技術力で勝負するという新しい日本の自動車メーカー像をつくることができるか。独立系中小メーカーの悲哀を味わうことになるか。当面の行方を左右するのは、この新技術がどれだけユーザーと他社に受け入れられるかだ。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 清水量介)