「1ヵ月半で82万人以上が利用してくれた。テレビ広告で同じ効果を得ようとすれば数十倍のコストがかかったはずだ」
ホンダの原寛和日本営業本部営業開発室マーケティング戦略ブロック主任は、ハイブリッド車「CR-Z」の「mixi(ミクシィ)」でのキャンペーンの効果をこう明かす。
CR-Zは、スポーツタイプのハイブリッド車。名前やスタイルが、1983年に発売され当時の若者に人気のあったCR-Xを想起させるため、ホンダでは、購買層に50代を中心とした年齢層を想定していた。
そこで、原氏はそれよりも若い層にも、なんとかCR-Zの名前を知ってもらえないかと考えた。白羽の矢を立てたのが、ソーシャルネットワーキングサービス(SNS)のミクシィだ。
SNSとは会員同士がインターネット上で趣味日記などを通じて交流する仕組み。日本ではミクシィのほかに、「モバゲータウン」「GREE」などがある。会員の中心は20~30代といわれている。
ホンダがミクシィで始めた「Ole!Ole!CR-Z」というキャンペーンは、参加者がまず自分のニックネームのどこかに「CR-Z」という文字を加え、“改名”することから始まる。「週刊ダイヤCR-Zモンド」といった具合だ。
そして、ホンダが用意したアプリケーションに登録する。このアプリはサイコロを1日1回振るというシンプルなものだが、サイコロを振る、あるいは自分の友人(マイミク)を新たにキャンペーンに招待するなどの行為によって、ある「数字」が増えていくという趣向だ。
この数字は、CR-Zがもらえる「当選確率」。抽選で1人に本物のCR-Zがプレゼントされるのだが、2010年2月12日~3月31日の期間中、その『当たりやすさ』を自ら高めることができるのだ。
原氏は「このキャンペーンのポイントは“支援”と“貢献”」と解説する。
じつは、1日5人にまで、サイコロを振る権利をプレゼントでき、そうすることで自分の当選確率を上げることができる仕組みなのだ。
他人がサイコロを振る回数が増えれば、自分だけでなく他人の当選する確率も高くなる。ミクシィなどのSNSにはもともと他者とのつながりを大事にする文化がある。そのため、この仕組みがかえって受け入れられた。
また、登録者自身がまだ登録していない会員に向け、キャンペーンの告知をする役割を持つという仕組みも、参加者がどんどん増えた理由でもある。
なにしろ、82万人といえば、全ミクシィ会員2000万人の4%近くにもなる。突如、名前に「CR-Z」と入れる会員が増えたことはミクシィでもかなり話題になった。
その結果、検索サイトで「CR-Z」と調べる人が増え、ホームページを立ち上げてから1ヵ月間の訪問者数は同じくホンダのハイブリッド車であるインサイトの数字を超えた。
開始前、原氏は「登録者数は1万人を想定し、5万人くれば万々歳」と考えていた。ところが、開始とともに参加者が殺到。毎日、サーバを増強し続けた。
1ヵ月半で82万人という数字は、期間限定のソーシャルメディアを使ったキャンペーンでは日本最大といわれている。
キャンペーンの事務局には「このキャンペーンでCR-Zを知って購入した」というメールも来た。ソーシャルメディアを通じてクルマが売れる。それを再認識した瞬間だった。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 清水量介)