漆紫穂子(うるし・しほこ)
品川女子学院理事長
品川女子学院理事長。東京・品川生まれ。早稲田大学大学院国語国文学専攻科、早稲田大学大学院スポーツ科学研究科修了。私立中高一貫校で国語科教員として勤務後、品川中学校・高等学校(1991年に現校名に改称)に移る。2003年から卒業後10年目の自分の姿を意識してモチベーションを高める「28プロジェクト」を開始し、06年校長に就任。17年理事長に就任。教育再生実行会議委員、内閣官房行政改革推進本部構成員。著書に、『女の子が幸せになる子育て』(大和書房)、『働き女子が輝くために28歳までに身につけたいこと』(かんき出版)、『伸びる子の育て方』(ダイヤモンド社)など。
社会的に活躍する女性の共通点
――品川女子学院を一躍有名にしたのが、28歳の自分の姿を思い浮かべて進路を選ぶ「28project」でした。
漆 いま、一般的な入試に備えて受験勉強をしている間は、クリティカルシンキング(批判的思考)、つまり、教えられたことを鵜呑みにせず、「本当に正しいのか」を自分の頭で考える力を養う余裕がないと感じます。欧米の経済学分野などの多くの研究で、数字で認知されない共感力や親切心、我慢強さなどの「非認知能力」が高いことが将来の社会での活躍につながるというデータが得られているのですが、現在の日本の受験では知識の習得が優先になってしまう。
本校でも、大学入試は学びの場を得るための18歳のハードルとして、乗り越える準備をしますが、それはあくまでも過程として、校内の学びはすべて28歳の未来から逆算する「28project」に基づいて設計します。長期的ビジョンに基づいた教育は性別を問わず大切ですが、出産というマターのある女子のライフコースは男子とは異なるからです。
あるとき、各分野における日本の女性トップリーダーが集まる会議に出たのですが、そこで参加者を見渡して、彼女らには共通点が二つあることに気づきました。それは国際経験と、MBA(経営学修士)や弁護士、公認会計士といった、何らかの“書ける資格”を持っている人が多いということでした。そして、出身大学は男性より遙かにバラエティーに富んでいるのです。
――男の場合は大学の序列に縛られる傾向があります。おっしゃるように海外経験は重要ですね。
漆 そのとき、女性の人生をサポートする「学歴」とは、「学校歴」ではなくて「学習歴」なのだと実感しました。その後、実際のデータにも注目し、生徒には、大学名よりも自分の進みたい学科を優先することを勧めています。その結果、浪人するかどうか迷うようなときも、そのエネルギーを大学院や海外留学に注ごうと選択する子も出てきています。
日本では、男性の就職環境はまだ(4月の一斉新卒入社に見られるような)メンバーシップ型が主流かもしれませんが、ある程度のキャリアを持つ女性の転職市場ではすでにジョブ型採用が始まっています。
――図1のグラフを見ると、21世紀に入ってから、仕事を持つお母さんの比率が急速に高まっていることがうかがえますね。
漆 一番下の子(末子)がいくつの時、何割のお母さんが働いているかという図2のようなグラフ(次ページ参照)を学校説明会で投影しています。
一番下の子が0歳児の場合、働いていたお母さんは2013年で30%でしたが、これが19年になると45%弱まで上がっています。中学に入る頃(12~14歳)から先になると、60%台半ばから70%超にまで上がります。