3M昆社長の説く「世界標準の人事」とは?【日本企業がグローバルで戦えない理由(4)】

6月中旬、医療現場ではコロナ第2波の到来に危機感を募らせていた。スリーエム ジャパン(3M)はその医療現場で使用されることを目的として、フェイスシールド1万枚を寄贈した。発案から製造まではわずか3週間。独自のアイデアをスピーディに実現する3Mという組織の強みについて、昆政彦社長に聞いた。(マネジメント・コンサルタント 日置圭介)

15%カルチャーが起こした奇跡

日置圭介 医療従事者を支援したい、何かできないかと考えた企業はほかにもあったはずですが、一から開発して短期間で製品化した3Mは、速さと実行力の点で頭抜けていました。なぜ、ああいうことができるのでしょうか。

昆 政彦 スリーエム ジャパン 代表取締役社長昆 政彦(こん・まさひこ)
スリーエム ジャパン 代表取締役社長

早稲田大学商学部卒業、シカゴ大学経営大学院修士課程修了(MBA)、早稲田大学大学院博士課程修了(学術博士)。 GE横河メディカルシステムCFO、ファーストリテイリング執行役員、 GEキャピタルリーシング執行役員 最高財務責任者(CFO)等を経て現職。2006年、住友スリーエム(現・スリーエム ジャパン)入社、2020年1月より現職。共著に『ワールドクラスの経営』(ダイヤモンド社)、『CFO 最先端の経営管理』(中央経済社)、『CSRハンドブック』(PHP)、 『やわらかい内部統制』(日本規格協会) などがある。

昆政彦 今回、発案したのは、フィルターの開発に携わる技術者でした。緊急事態宣言で在宅勤務が続くなか、社内の有志が主にオンラインでつながり、設計・開発、生産技術などの各人の強みを出し合って実質3週間で製造にこぎつけました。これを可能にした土台は、15%カルチャーという3Mに引き継がれてきた不文律です。これはビジネスに役立つと思われるものであれば、労働時間の15%を自分の好きな研究や実験に使ってよいというもので、上司の指示や許可を待つのではなく、社員が自律的に動いて新しいものを生み出す風土を培っています。これなくして、スピーディな行動は生まれません。

日置 3Mの最大の強みは、継続的にイノベーションを生み出す力です。優秀なイノベーティブ人材ほど自由と自律を求めますから、3Mはそうした人材を惹きつけるのでしょう。その育成に人事はどう取り組んでいるのでしょうか。 

昆 自由と自律はイノベーティブな人財を育成するうえで不可欠な要素ですが、それを含めて人事部が人財を管理するという考え方はもう古い。人財管理や労務管理という言葉自体に、私は違和感を覚えます。資質や能力はともかく、人間を管理してはいけない。社員一人ひとりが自律性をもって動いて、力を発揮できる環境を整えることが、いま人事に求められることです。

日置 マネジメントの意味を現代語訳するということですね。社員を管理するのではなく、一人前の大人として扱い、自ら動くようにする。具体的にはどのような仕掛けなのでしょうか。

発案から3週間で提供した「3M™ フェイスシールド」発案から3週間で提供した「3M(TM) フェイスシールド」。医療現場で使用実績があり、在庫が確保できる材料を厳選し、製品構成を単純化するなど、製造の生産性を高める工夫がなされた 写真提供 スリーエム ジャパン