安いニッポン 売られる日本#13Photo by Yoko Akiyoshi

「安過ぎニッポン」では、通貨の円まで安くなっている。1990年代後半に“ミスター円”として名をはせた榊原英資・元財務官は、かつてのような1ドル=100円を割り込む円高は二度と来ないという。特集『安いニッポン 買われる日本』(全24回)の#13では、ミスター円が円高の再来はないと断定する理由を語る。(構成/ダイヤモンド編集部編集委員 竹田孝洋)

1ドル90円時代は二度と来ない
ミスター円が見通す理由

――2021年に入ってから、為替は円安で推移しています。日本は円高を嫌がる傾向にありますが、実際のところ円安は日本経済にとって歓迎すべきものなのでしょうか。

 私が大蔵省(現財務省)の国際金融局長や財務官を務めていた当時は、為替レートの動きが大きな関心を集めていた。1995年に80円を割ったように極端な円高が進行し、円高が不況をもたらすことが懸念されていた。だから円高抑止のために為替相場でドル買い円売りの介入もしたし、米国と歩調を合わせた協調介入もした。

 円安は輸出にとって有利だ。円建ての価格が同じでも、円が安くなれば外貨ベースでの価格が安くなる。外貨ベースの価格を同じままにするなら、円に転換したときの収入が増える。だから、日本企業の海外生産が進んでいないときは、円安の方がプラスだと言ってきた。

 しかし90年代と今とでは状況が変わってきている。現在、日本企業の海外生産比率がかなり高くなった。海外生産をしている企業にとっては、製品を逆輸入したときの価格が安くなる円高の方が望ましい。どちらかというと、今は円高の方が日本経済全体から見ればメリットが大きいという状況になってきている。

――では、円の対ドルレートは、幾らぐらいで推移しそうでしょうか。