安いニッポン 売られる日本#14Photo by Yoko Akiyoshi

給料が「安過ぎ」で損をするのは、労働者ばかりではない。企業の生産性が上がらなくなり、経済全体に甚大な影響を及ぼす。にもかかわらず、最低賃金引き上げに反対している財界首脳がいる。特集『安いニッポン 買われる日本』(全24回)の#14では、菅義偉首相のブレーンの一人である小西美術工藝社のデービッド・アトキンソン社長が、「給料安過ぎ問題の戦犯」として日本商工会議所の三村明夫会頭を名指しで厳しく批判している。(聞き手、構成/ダイヤモンド編集部副編集長 杉本りうこ)

日本の給料安過ぎ問題「戦犯」は
財界首脳の一人、日商会頭だ

 私はかれこれ38年にわたって日本経済を分析してきました。日本経済が抱える問題は一見複雑ですが、長年分析を続けていると本質が非常にシンプルに見えてくる。日本経済の未来のためにやるべきことは、突き詰めれば二つ。一つ目は賃金を上げること、二つ目は研究開発費、設備投資、人材投資を増やすこと。これだけです。

 そして賃金と投資のどちらが先かというと、絶対に賃金を上げることが先です。なぜか。賃金が低いと、企業は投資をしないのです。逆に賃金が上がって人のコストが高くなると、企業は設備投資をするようになる。

 この事実は発展途上国を見れば一目瞭然です。かつての中国や今のインドがそうですが、途上国は人のコストが安いから、工場で不良品が出てもそれを捨てて、人手をかけて作り直す。しかし人のコストが高くなれば、人を無駄に使わないように不良品を防ぐ品質管理をやり始めます。こうして設備投資が起こるのです。

 これは「資本深化」といって、労働者1人に充てる設備投資の資本量が増すことです。人のコストが高くなると、その人の労働が無駄にならないように投資するメカニズムです。資本深化は英国では、高校の教科書に出てくる経済学の基本です。

 そして新しい設備を使いこなすのは、人材投資です。研修を重ねた人は、設備を使って新しい技術を生み生産性を高め、付加価値を創出します。その付加価値が賃金の上昇になり、次の投資にもなる。この資本深化の好循環のスタートにあるのが賃金を上げることなのです。

 ところが日本にはナンセンスにも、「賃金を上げてはならん」と言う人がいるのです。