去る10月18日、50年ぶりの国産旅客機であり、初の国産ジェット機となる三菱リージョナルジェット(MRJ)が初めてその姿を披露した。かつて経済産業省において航空機産業政策に従事していた筆者としては、MRJが実機完成に至ったことはこの上なく嬉しいことであり、ここまで血のにじむ努力を積み重ねてこられた関係者の皆様に敬意を表したい。

新規参入者を助けるものが市場を制する <br />50年ぶりの国産旅客機開発を機に考える<br />航空機産業が示唆する日本の産業界の課題(1)<br />――rimOnO代表(元経済産業官僚) 伊藤慎介いとう・しんすけ
株式会社rimOnO(リモノ)代表取締役社長。1973年生まれ。京都大学大学院工学研究科卒業後、1999年に通商産業省(現、経済産業省)に入省。経済産業省では、自動車用蓄電池の技術開発プロジェクト、スマートハウスプロジェクト、スマートコミュニティプロジェクトなどの国家プロジェクトを立ち上げた後、2011~2013年には航空機武器宇宙産業課において航空機産業政策に従事。2014年7月に経済産業省を退官し、超小型電気自動車のベンチャー企業、株式会社rimOnOをznug design根津孝太と共に設立。

 ただし、MRJにとっても日本の航空機産業にとっても今回の初披露はほんの出発点に過ぎず、困難を極めるのはむしろこれからであろうと思っている。初飛行、初号機納入までにはまだまだやるべきことが山積しているであろうし、ましてや圧倒的に規模が大きく、経験値もある世界の航空機メーカーがしのぎを削る世界市場で確たる地位を築くには、これまでの常識を捨てて挑戦するような大胆さが必要となるだろう。

 さて、今回の短期連載で筆者が主張したいことは、MRJや日本の航空機産業の将来について語ることではない。むしろ、MRJや日本の航空機産業が抱えている問題が特殊なものではなく、他産業にも十分通じる一般的な問題であるということである。

 逆に言えば、電機、機械、ITなどで当たり前のように起きていることは、一見すると特殊に見える航空機業界でも、当たり前のように起きているということなのである。

 まず第1回目では、ローコストキャリア(LCC)の新規参入とそれに伴う競争のダイナミズムの変化について紹介したい。そして、その変化が既存プレイヤーの力関係にどのような変化をもたらしたのかについて解説したい。