独身時代の物件購入は大成功
新聞社広告営業部勤務の山本澄夫さん(仮名、41歳)は、3年前のマイホームの買い替えで、男と女の価値観の違いを実感した。「妻を説得するのは、どんなクライアントを説得するより難しかった。心身ともに消耗しましたよ」と苦笑い。
山本さんは独身時代に60㎡のマンションを購入している。研究熱心な山本さんは不動産情報を収集し、まさにマニュアル本にあるとおりの「賢い選択」をした。将来の買い替えも考えて、投資家の視点で資産価値もチェックしている。
この物件は人気沿線の駅から徒歩数分。賃貸に回しても15万円の家賃は固い。
収益還元法(※1)で試算すると、(15万円×12ヵ月)÷5%(期待利回り)=3600万円。実際の販売価格は東向きなので3100万円と割安だった。
「家には寝に帰るだけだから、東向きでも十分」と購入を決断。山本さんの読みは当たり、5年後の買い替え時には購入価格を上回る3200万円で売却できた。5年間の住居費がゼロになったばかりか、引っ越し代も出た勘定だ。
「中古なんて絶対いやよ!」
こうした「輝かしい実積」をもつ山本さんだが、結婚後の買い替え作戦は大苦戦。妻の洋子さん(仮名、36歳)が、山本さんの推奨物件をことごとく却下したからだ。
買い替えのきっかけは、洋子さんの妊娠だった。
「赤ちゃんが生まれたらここでは狭いわ。近所で広いところに住み替えましょうよ」
そこで、山本さんは近隣で築10年、78平米の3LDKのマンションを見つけた。マンション価格は販売された時点(中古になった時点)で通常2割ほど自動的に下がり、築10年を超えるとまたガクンと下がる。しかも、持ち主は売り急いでおり、値引き交渉も有利に進みそうだった。築10年の割には内部も綺麗に使われており、面積も間取りも管理状態も申し分ない。山本さんのデータ分析では完璧に近い物件だ。
ところが、洋子さんは「中古なんて絶対いやよ!」と言下に拒否。
次に山本さんが選んだのは同じ沿線の新築マンションだった。やや予算オーバーだが、駅から徒歩圏の大手ディベロッパーの開発物件。耐震性、資産価値、管理会社などもチェックし、冒頭の収益還元価格の試算でも「ほぼ合格点」をマークした推奨物件だったが、「駅前がダサイし、スーパーも高くて新鮮じゃない」と、洋子さんはまたまた却下。
むっとした山本さんだが、ぐっとこらえて対象範囲を広げ、深夜まで不動産情報の収集と分析に充てた。休日はふたりで「理論上、合格物件」のモデルルーム巡りを続けたのだが…。